なぜ大企業が新興企業に寝首をかかれるのか

 ビジネスの世界で必ずと言ってよいほど繰り返されるパターンといえば、業界の大手企業が技術や市場の変化にいち早く対応できず、競争に負けてしまうというものである。

 これら大手企業は、既存顧客の維持への投資をいとわない。しかし、このような投資で成功してきたにもかかわらず、潜在顧客が求める技術になぜ投資できないのだろうか。

 官僚主義、傲慢さ、無気力な経営陣、ずさんな計画、近視眼な投資など、これらすべてに原因があることは間違いない。実は、このパラドックスの根底には、もっと根本的な理由がある。すなわち、「顧客の意見に耳を傾ける」という教義(ドグマ)を盲目的に信奉していることだ。

 我々の研究によれば、マネジメントが優れているといわれる企業は、既存顧客が次世代技術を必要としていれば、漸進的改善であれ、革新的な新手法であれ、他社に先駆けてその開発と製品化に取り組む。

 ところが、大口顧客のニーズに合致しない技術、あるいはニッチ市場や新規市場だけを狙った新技術を製品化する際、これら大企業が先頭に立つことはほとんどない。

 いわゆる優良企業には、合理的かつ分析的な投資の意思決定プロセスが整っている。これに従えば、既存市場の顧客ニーズに注ぎ込んでいた経営資源を、あまり重要とは思えない、ましてやよくわからない市場や顧客に振り向けることはまず正当化されない。結局、既存顧客のニーズに対応し、ライバルを蹴落とすことに、持てる資源のすべて、あるいはそれ以上を投入する。

 優良企業では、正当な理由の下、既存市場と既存顧客のために、顧客ニーズを特定し、技術トレンドを予測し、収益性を評価し、方向性の異なる投資提案に限られた資源を配分し、新製品を上市することに注力する。したがって、このプロセスでは、顧客ニーズからズレた製品や技術が提案されると、おのずと排除される。