顧客のもたらす「変数」

 もしも顧客が生産現場に何の前触れもなく次から次へと訪れて、自分たちが検討に検討を重ねてきた生産プロセスをあちこちいじり、混乱を引き起こしたとしたらどうだろう。

 サービス企業にとって、これは日常的な出来事だ。顧客は、サプライチェーンの途中に直接参加して、ありとあらゆる変数をオペレーションに反映させるように求める。サービスに一貫性がなければクレームをつける。

 サービスの世界では、これらの変数に対応することは最重要課題の一つであるが、これまでの教育研修ではあまり重視されず、その解決に役立つツールもない。

 オペレーション管理の理論においても(これはもともと製造業を対象としている)、変数は排除すべきものであり、教育研修では例外なく「品質の敵」として扱われる。

 しかしサービス業にとっては、そう単純な問題ではない。

 第1に変数の排除は必ずしも得策ではない。なぜなら、顧客はサービス経験の満足度を、自分によって生じた変数がどれくらい拒否されたかではなく、どれくらい許容されたかによって決めるからである。

 第2に、サービス業では変数を排除すること自体、そもそも不可能である。というのも、製造業であれば、生産要素のコストや品質についてすべて自分で管理できるが、サービス業ではそれはできないからだ。サービス業の場合、顧客はきわめて例外的で重要な生産要素である。しかもこの要素は感情を持っており、それゆえ気まぐれで、企業の収益といった問題にもまったく無頓着だ。