成功する組織のプロセスマネジメント
サマリー:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2025年5月号の特集は「成功する組織のプロセスマネジメント:AIで業務を改革し、生産性を高める」です。企業の成果を高めるうえで、業務プロセスの効率化は避け... もっと見るて通ることはできません。そのプロセスマネジメントの領域で、生成AIの力を活用することによってさらなる改善につなげている企業は、どのようなゴールを掲げ、プロセス改善に取り組んでいるのでしょうか。4本の論考とともに最新動向を探ります。 閉じる

生成AIで業務プロセスも進化する

「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」(BPR)という言葉がビジネス界を席巻したのは1990年代前半。先鞭をつけたのは、マイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーの著書『リエンジニアリング革命』でした。

 折しも企業の間ではITの導入が進んでいたことから、これをてこに非効率な業務プロセスを抜本的に見直そうという機運が高まりました。そのモメンタムが特に米国において顕著だったのは、不況によるコスト削減圧力のほかに、1980年代頃から国際競争力を高めていた日本の製造業の存在もあったはずです。自信を喪失していた米国企業にとって、「競争力を保つためには、単なる業務のカイゼンに留まらず、ITの活用を前提にしたプロセス全体の抜本的な変革が必要だ」とするハマーらの主張は受け入れやすいものだったに違いありません。

 あれから1世代分の時が流れ、いま再び、プロセスマネジメントに注目すべき時機が来たと感じています。今回の起爆剤はもちろん「生成AI」です。かつてのIT導入が業務効率化の可能性を示唆したように、生成AIもまた、業務プロセスを飛躍的に高度化させるポテンシャルを秘めています。その可能性の一端をお伝えすべく、今号の特集「成功する組織のプロセスマネジメント」を編みました。

 特集1本目「AIで進化するプロセスマネジメント」は、生成AIを活用して企業が業務プロセスを刷新し、それを業績向上へとつなげるための道程を示します。

 特集2本目の「優れた企業は生成AIの力でビジネスプロセスを改善する」では、人間中心のビジネスプロセスを生成AIの力でどのように改善していけばよいのか、オペレーショナル・エクセレンスを実現している企業の事例とともに探ります。

 続く3本目「AIの活用によって生じる心理的障壁を取り除く方法」は視点を変えて、AI導入時に多くの組織が経験する「現場からの抵抗」に対処する方法を考えます。人は変化を嫌うもの。新しいテクノロジーが登場した時、抵抗なく受け入れられる人はむしろ少数派かもしれません。それでも、AIを活用することの利点を理解してもらい、成功裏に導入を進めるために、マネジャーは何をすべきなのでしょうか。

 特集4本目「アシックスはデジタル戦略を軸に成長を加速させる」は、デジタル戦略を足がかりにして2020年の不調からV字回復を果たしたアシックスの代表取締役社長COO、富永満之氏のインタビューです。組織に変革をもたらすうえで、どこがレバレッジポイントになるかを見極めて実行につなげることの重要性にあらためて気づかせてくれる内容は必読です。

 成功企業の事例なども手すり代わりにしながら、あなたの組織の業務プロセス改善にお役立ていただけたら幸いです。

 さて、今号の巻頭では、2025年1月25日に逝去された野中郁次郎先生の追悼企画をお届けします。先生が遺された数々の功績を引き継ぎ社会の発展に資する責務は、私たち次の世代にこそある。企画の副題を「その功績を未来につなぐ」としたのは、編集部のそんな想いからです。野中先生とともに歩んだ55年間の研究生活の中に散りばめられたとびきりのエピソードを明かしてくださった竹内弘高先生と、なぜ世界がIkujiro Nonakaに注目したのかを時代背景とともに概説してくださったトーマス A. スチュワート氏に、あらためてお礼を申し上げます。

(編集長 常盤亜由子)