「方法の原理」を共有することによって、立場や前例に縛られることなく、今の状況と本来の目的に照らして、ベターな方法を提案しあう建設的な言語ゲームがはじまるのである。さらに、この方法では、多くの人の知恵を反映できるのみならず、アイディアをみんなで具体的な形にしていく。そのため、そこで生まれた方法はそれぞれにとって、「子ども」のように愛着を持てるようになり、自然と成功させたい、立派に育て上げたいというモチベーションをに繋がるというメリットがある。

 実際、私が「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を日本最大の総合支援組織に育てることができたのは、こうしたトップダウンでも、ボトムアップでもない、多くの人を巻き込みながら建設的にアイディアを形にしていくための第三の意思決定の方法を持っていたことが大きい。

「原理」とは上手に考えるための視点

 「原理」とは今まで見えなかったことを見えるようにする「視点」である。見えるようになれば対策も立てられる。しかし、原理はそれさえ知れば組織が自動的に改善されるといった万能薬ではない。原理はいつでもどこでも必要なときに起動できる、「上手に考えるための視点」なのである。今回示したように、使えば使うほどその使い方も深化していき、その力を実感することができるだろう。

 「この組織の不合理は『方法の原理』からみると、どういう風に理解できるだろうか?」「『価値の原理』からみて、この人は何に関心があって、こういうことを言っているのだろう?」「どういうことをいえば、この人の関心に響くのだろう?」

 こうした問いを立てながら、ぜひ、ここで学んだ「原理」を活用し、様々な現象を洞察していってもらえたらと思う。

次回は、「星野リゾート」や「無印良品」といった企業を例に、物事の本質を捉える「本質観取」という哲学的な思考法は、経営をV字回復させる際にも本質的に役立つことを示していく。

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【連載】早稲田大学ビジネススクール経営講座

ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門 記事一覧

第1回 「哲学」がMBAの人気講義になるのはなぜか?

第2回 なぜ「答え」ではなく「問い」が大事なのか?

第3回 組織に蔓延する「前例主義」を哲学でどう打ち破るか?

第4回 星野リゾートと無印良品に共通する本質を捉える思考法 

第5回 天才じゃなくても「本質」は掴める