いまのビジネスに最も求められるものとは

 現象学の創始者であるフッサールは、人文、社会科学は事実学(自然科学的スタンス)ではなく、本質学であらねばならないとして普遍学を構想した。そして、それはドラッカーがその天才的な本質観取力により実践していたことでもある。それを誰もが参加できるオープンゲームとして再生させ、フッサールの普遍学の構想を実現するための枠組みが私の提唱する構造構成主義なのである。

 構造構成主義はもともと学問の原理論として構築されたメタ理論であり、医療、教育、福祉といった様々な分野に応用されてきた。この連載で紹介してきたのは、その哲学を組織行動に応用した「本質行動学」という新たな学問であり、そのエッセンスでもある。そしてこの学問は人類が初めて遭遇した未曾有の複合大震災において、「日本最大の総合支援プロジェクト」を実現した(注5)。これらは本質行動学が厳しい現実下で大きな成果をあげる類稀なる実践力を備えていることを傍証しているといえよう。

 これは従来の組織行動を批判するものではまったくない。むしろ、組織行動が生み出してきた知見がソフトだとすれば、それらをバージョンアップさせるOSが本質行動学なのである。というのも、個々のアプローチにしても、エビデンスにしても、「何が良いのか」「どう使えば良いのか」を考える際に根本のところで役立つのが「価値の原理」であり、「方法の原理」といったメタレベルの考え方に他ならないためだ。哲学が「諸学の女王」と呼ばれていたのは故ないことではないのだ。いまやこういうべきだろう。ほんとうの哲学こそ、本物しか生き残れない今のビジネスの現場に最も欠けているものであり、それゆえ最も求められているものであると。

 「本質行動学」は始まったばかりである。ぜひそれぞれの現場で活用していっていただけたらと思う(注6)。

 

注1:竹田青嗣 1994 現象学は〈思考の原理〉である 筑摩書房 p.188

注2:詳しくは、西條剛央『構造構成主義とは何』北大路書房,4章参照。

注3: クレイトン M.クリステンセン『C・クリステンセン経営論』p.7(2013年、ダイヤモンド社)

注4:スティーブン P. ロビンス『新版 組織行動のマネジメント』p.6 (2009年、ダイヤモンド社)

注5:2014年11月「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は2014ベストチーム・オブ・ザ・イヤーを受賞した。組織作りの活動を紹介した関連記事は以下。
「なぜ10万人がリーダーに頼らず自律的に動けたのか?──未曾有のボランティアチーム「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の挑戦」

注6:本質行動学を体系的に学べる機関として「本質行動学アカデメイア」がある。

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本連載の続編にあたる西條先生の連載がBizCOLLEGEにて始まっております。

連載『リーダーに頼らず自立的に動く!「しなやかなチーム」の作り方』

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【連載】早稲田大学ビジネススクール経営講座

ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門 バックナンバー

第1回 「哲学」がMBAの人気講義になるのはなぜか?

第2回 なぜ「答え」ではなく「問い」が大事なのか?

第3回 組織に蔓延する「前例主義」を哲学でどう打ち破るか?

第4回 星野リゾートと無印良品に共通する本質を捉える思考法 

第5回 天才じゃなくても「本質」は掴める