チームと会社は5万ドルを節約できたわけだが、メリットはそれだけではない。頼み事が予想外の援助で解決したことで、他者の知識や状況を事前に決めつけないで依頼することの有効性が明らかになった。このことは、研究者たちがその後協力を深めていく土台にもなった。

 助けを求められた人は、たとえ自分が直接応えられなくても、公私にわたるネットワークを活用できる。相手がどんな人脈を持っているかは、実際に何かを頼んでみなければわからないものだ。私は以前、絶対無理だと思われる頼み事をしたことがある。結婚10周年の記念日が近づいた時、妻はプレゼントとして、カリスマシェフのエメリル・ラガスがホストを務める料理エンターテイメント番組『エメリル・ライブ!』をスタジオ観覧したいと言った。私が教えていたMBAの学生たちにこのことを話したところ、番組関係者とつながりがあるという者が数人現れた。その1人は、なんと番組のプロデューサーの友人だった。彼がメールを通じて手配してくれたおかげで、妻と私はバレンタインデーの放送回に参加できたのである。

5.助けを求めることが奨励される組織風土をつくる
 助けを求めやすく、与えやすくなるような雰囲気、規範、慣習を職場環境に取り入れよう。デザインコンサルティング会社のIDEOは、助け合いを促す確固とした規範を持っている。テレサ・アマビールらの研究によれば、同社のデザイナーたちは、プロジェクト始動時に「誰かの助けが必要になるであろうこと、その時は助けを求めること」を意識するよう指導されている(詳細は「IDEOの創造性は助け合いから生まれる」を参照)。他者の助け合いを目にすることで、規範は強化され、心理的な安心感が生まれる。IDEOのリーダーたちは、みずから依頼者および助力者となることで行動の模範を示している。この助け合いの文化が、顧客に愛される優れた製品デザインを多数産み出してきた実績につながっているのだ。

 先に少し触れた、ミシガン州の食品会社ジンガーマンズも助け合いを促すポジティブな社風を持っている。他に類を見ない慣行の1つは、新しいマネージング・パートナーを迎え入れる時に見られる。就任イベントで参加者が1名ずつ、新しいパートナーの成功のためにどんな援助ができるかを述べていくというものだ。私は、70人もの人々がたった1人の新任パートナーのために助力を表明する場面に立ち会ったことがある。公の場でのこうした表明によって、新任者も助けを求めやすくなる。ここには2人の創業者も参加し、助け合いへの期待を述べて模範を示す。この慣行の成果として、従業員エンゲージメント、意思決定の質、そして顧客サービスの質が向上している。

 互恵性は一方通行では成立しない。個人の成功とポジティブな社風を実現するためには、ギブとテイクの両方が不可欠だ。もしあなたが人を助けるばかりで、自分からは求めないならば、人間には生来「恩に報いたい」という欲求があることを思い出そう。そしてリーダーは、助けを求め与え合う行為を日々の職場慣行に組み込む必要がある。


HBR.ORG原文:5 Ways to Get Better at Asking for Help December 18, 2014

■こちらの記事もおすすめします
人との良好な関係を築くには お願いごとから始める
周囲の生産性を上げた影の功労者を、正当に評価しよう
マネジメントで助け合う組織をつくる

 

ウェイン・ベーカー(Wayne Baker)
ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのロバート・P・トーム記念講座教授。著書にAchieving Success Through Social Capital(邦訳『ソーシャル・キャピタル 人と組織の間にある「見えざる資産」を活用する』ダイヤモンド社、2001年)などがある。