失敗を無くすという「リスク」
学習する組織作りのために、最も重要なことは、失敗を学習のための糧とみなすことであり、失敗を避けるようになってはいけない、と言われている(注4)。
起業家的組織に見られる、新しいもの・ことを作り出していくプロセスは、「(不確実性があるからこその)仮説→実験(試してみる)→(仮説に照らし合わせての)振り返り→新たな仮説つくり」を繰り返していくというサイクルである。当然、多くの失敗と振り返りが伴う。予算があり、それを「計画通り」に達成していくためにPDCAのサイクルを回す、というプロセスとの違いを感じ取ることが大切だ。
失敗を織り込むからこそ、最終的な成功がある。例えば、ベンチャーキャピタル(VC)投資では、10件の投資からの結果は、1件の大成功、1~2件のとりあえずの成功、数件の倒産、残りはリビング・デッドと呼ばれ、なんとか生き残っているだけの企業となる。世界的には、これらの投資案件からの平均リターンとして、少なくとも20%/年が求められる。VC投資は極端な例であるが、各企業は、起業家的に結果を出していくためには、直面している不確実性に見合った数の失敗を想定し許容していくことが必要となる。
しかし、組織として失敗を許容することは、易しいことではない。日本、そして各国での研究を振り返っても、大半の組織において、従業員にはクリエイティブに仕事を進めていくことが期待されている一方で、実際に評価されがちなのは、ミスなくこなされた仕事であり、失敗には罰がつきまとう。結果として、仕事の進め方は、これまでのやり方を踏襲したものやオリジナリティの薄いものに収束し、起業家的なもの、革新的なものとはかけ離れたものになってしまう。古い体質を持った日本企業のように、リーダーシップを発揮するための権限が与えられ始めるのが40歳前後、しかし、その頃には家族がいる、というようなシステムでは、この「失敗を無くすリスク」を克服することは難しい。