「型」を破る
とはいえ、急に失敗を許容できる組織へと変わることは難しい。予想外の出来事により失敗してしまった場合に、全体の屋台骨が大きく揺らぐ“Big Project”に手を出すことで、さらなる窮地に陥る企業も多い。起業家的な組織への転換を図る際には、まずは小さな失敗と成功を繰り返すことに慣れながら、次第にプロジェクトのスケールを上げていくというプロセスを踏襲しなくてはならない点には気をつけたい。転換のプロセスは、10年近い時間がかかることもある。しかし、何より大切なのは、変革を必ず成し遂げるという、トップの強いリーダーシップとサポートである。
これまでは、リーダーの立場に立つ人には、その長い経験や知識を生かして、部下を管理・監督しながら業務をコントロールすることが期待されてきた。人材育成面では、上司は部下に、自分が経験済みで良くわかっている、つまり結果をイメージしやすい範囲の仕事を「やらせて」みながら、部下を「トレーニング」していく。時に失敗もあるが、それは上司が予測できる範囲内である。上司が成功モデルとなり、私のようになれ、というメッセージを暗に伝えながら、部下の体に企業文化にあった「型」を染み込ませていくプロセスである。現在も、学校教育における部活動や、先輩・後輩という関係に見られるような、「上の命令には従う」という上下関係も、同時に埋め込まれる。
このような型にはまった人間関係は、未来が過去の延長である場合には機能するが、変化に対しては脆弱だ。現代では、リーダーであっても、自分は全てを知っているわけではないという現実を見つめ、全てを予測しコントロールすることはできないと認識した上で、自分自身も学習者にならなくてはならない。上司も部下も、異なった役割を果たすリーダーとして、一緒に「当初は想像できなかったものを創造していく」プロセスが求められている。計算されたリスクを取りながら実験する自由と、結果としての適切な失敗経験が生かされ、「型」を破っていく人や組織こそが幸福になれる。ただし、考えることなしに、何にでも手を出してみるという、「型」無しになることを避けることは当然だ。