二つの人材群をどう惹きつけるか
単一的な解決策がすべての組織に当てはまるわけではない。しかし、パフォーマーとトランスフォーマーを惹き付けるための組織は、この両者の特性を十分に理解した組織でなければならない[注16]。 ここからは、そのような二つの異なるタイプの人材の採用、能力開発、キャリア形成、人事評価をどう考えればよいかを議論する。
採用(Recruitment)
パフォーマー
典型的には、形式化された評価のプロセスによって、過去の実績に基づいて採用すべきである。その際に重要なのは、即戦力であるかどうかであり、未来の可能性ではない。明確に定義された職責と目標に対して、短期間で最大の成果を発揮できる人材が優先される。業務に注力し、その役目を満たすための才能があり、実績に向けての熱量がある人材が求められるだろう。
トランスフォーマー
典型的には、過去の実績からは採用されない。他の組織における変革の過去の実績は、必ずしもその組織の変革につながるとは限らないからである。求められるのは、実績の有無にかかわらず、その組織の主要な事業機能に新たな発想をもたらし、変革によい影響を与えうる可能性である。多様性に基づいた視野を持ち、独自の知見を醸成した先見性を持つ人材が、変革をもたらす可能性がある。
トランスフォーマーの採用にあたっては、形式的な採用にこだわるべきではない。非伝統的なキャリアを個別に設計し、魅力的な機会を提供することで、できるだけ幅広い採用プールから、これに見合う人材を採用すべきである。多様な人材を採用すると同時に重要なのは、その採用にあたって、その企業独自の文化と方向性に関する明確なメッセージを候補者に伝え、そして集団として目指している姿と、その候補者の方向性の確実なフィットを目指すことである。
能力開発(Development)
パフォーマー
高度に仕組み化され、また標準化されたトレーニングプログラムが処方されるべきである。これらは個人の趣向や計画には関係なく、企業側が特定したニーズに基づいて提供される。その目的は、パフォーマーが最大限の貢献を早期に発揮することであり、彼らの職責に求められる技術的や管理的な能力を、時代変化に即して保持し続けるためにある。パフォーマーは、いつ組織を去るかわからない。したがって、提供される能力開発も、いま、そのときに求められる内容に限られる。それ以上の学びは各自が業務を通して得ることが期待され、より経験値の高い同僚とともに働くことから盗み取ることが求められる。
トランスフォーマー
個々人の特異なニーズに最適された独自のプログラムを提供するべきである。そうしたプログラムには、公式な要素も非公式な要素もあり、中長期的な個人の成長と事業環境の変化に合わせてたえず調整される。その焦点は、技術的なトレーニングではなく、特定の能力を開発するものでもない。重視されるのは、知見と教育をみずから獲得するための作法であり、ソフトスキルとも呼ばれる対人能力や社会的な素養である。これには、狭義の社内トレーニングには収まらない、コーチング、ジョブローテーション、出向や一時転籍、サバティカルや学位取得留学も含まれる。
キャリア形成(Career)
パフォーマー
予測可能なキャリアパスが提示され、それは段階を追うごとにより高い数値目標とそれを達成する責任が与えられ、それに合わせて報酬の可能性も付随して向上するシンプルな構成が望ましい。各個人は比較的狭い領域に定義された機能と職責の階段構造を少しずつ昇進の関門を通過しながら進んで行く。パフォーマーが単一の組織で昇進していくのであれば、それは業績の達成に紐付いた段階的な前進となる。しかし多くの場合、パフォーマーは外部からも採用され、それに見合う実績をもたらすという前提のもとで、高い職責も与えられる。
トランスフォーマー
個々人の特性に合わせて、事前には予測しづらいキャリアパスが個別に与えられる。ただ少なくとも、直線的に階段を駆け上がるようなキャリアは与えられない。トランスフォーマーに与えられるのは次なる成長機会であり、それには異なる職責への異動や、部門や地域の変更、ときにまったく異なる能力が求められる業務も含まれる。これは人材開発であり、その経路は一人ひとりの特性に左右され、その組織が将来求める人材像にも依存する。トランスフォーマーの業務はたえず変革することであり、戦略的なプロジェクトが主体であるがゆえに、組織のあらゆる領域がその人材開発のフィールドになりうる。
人事評価(Recognition)
パフォーマー
評価は、基本的には、ごく少数の事前に設定された数値目標によって行われ、それらの目標の達成や未達は、それに対する職責と報酬の変動に明確に紐付いているべきである。目標に対する大幅な達成は、同様の目標設定が与えられた同僚や他者との比較のうえで、高く評価される。個人の達成が重視されることを前提としながら、その行き過ぎを防ぐためのチームの達成を評価する枠組みが設計される。
評価とそれに基づく報酬は、A・B・C・Dなどの限られた段階評価ではなく、業績と報酬との計算式に基づいたわかりやすい関係性で決定される。これは職場に競争をもたらし、同僚に対してより高い評価を得ようとする誘引となる。変動報酬は高く設定され、特に最上位の評価を得る人材には、一時的にせよ相当に高い報酬が提示される。
トランスフォーマー
評価は、明確な数値には現れにくい定性的な要因に分解されるのが望ましい。たとえばそれは、どのような活動を行ったかであり、また上司や部下、利害関係者からどのように評価されているかが加味される。変革が業務であるがゆえに、何が良く何が悪いかは特定が難しい。したがって多面的な評価が必要となり、画一的な計算式でその評価を見出すことも困難である。
評価はあくまで、対話を通じた個人の能力成長への議論であり、その結果から導き出される次の目標すらも、たとえそれが存在するとしても、あくまで成長のための指針であり、次に何を達成すべきかを明確に指し示すものではない。したがって、大半のトランスフォーマーの報酬は固定給に近く、短期的な成果には紐付かない。成果報酬が用いられるとしても、それは集団の業績に紐付くものであり、中長期的な企業の成長によってもたらされる。
パフォーマーとは異なり、個人の達成に基づく業績給は、トランスフォーマーの活躍を阻害する。なぜなら、それは強調と協業を阻害し、社会的ネットワークを機能させることを難しくさせるからである。そのためトランスフォーマーの報酬は、上司の顔色を伺うことではなく、組織の未来を考えることであり、個人の達成を求めることではなく、組織の繁栄を求めることで向上する。