デファクトスタンダードが一気に社会インフラ化し
後発参入すら不可能に

――企業はどのような準備をしておくべきですか。

田中 前述の通り、既存大企業にとっては現時点でブロックチェーンに本格対応する経済的合理性は低いといえますが、一方でただ座して待つのみでは機を逸する危険があります。というのも、デジタル化の深化により、昨今では新たな技術が普及期を迎えてから、デファクトスタンダード争いが決着するまでのサイクルが短期化しているからです。

 身近な例では、1970年代から始まった家庭用ビデオレコーダーにおけるVHS対ベータ競争は、決着がつくまで15年を要しましたが、2000年代初頭に登場した電子マネーは、マルチ決済端末の普及により経済圏拡大競争が落ち着くまで10年もかかっていません。今話題のQR決済などは2、3年で勝敗が決するのではないでしょうか。

 とりわけ、ブロックチェーンは外部ネットワーク性が強く働く技術であり、ブレイク・イーブン・ポイントを超えれば、あっという間に社会インフラ化まで進んでしまい、後発参入すら不可能となる可能性が高いと見ています。

中村 かつてのインターネット黎明期では、当初はみんながインターネットを使ってどんな面白いことやビジネスができるのかを考えていました。しかし、実際にインターネット関連ビジネスが拡大してきたのは、インターネットの技術が出来上がってから5~10年後、実際に普及期を迎えてからです。

 つまり、ビジネス化ができたのは、“技術を目的”として考えビジネス部門と技術部門がバラバラに試行錯誤していた当初ではなく、ビジネス部門と技術部門とが融合し、“技術を手段”として捉えられるようになってからだったわけです。特に、「数年間仕込んで1,2年で決着がつく」ブロックチェーンのような技術で他社の後塵を拝さないためには、テクノロジー視点を持ちながらビジネスを能動的に創造できるプレーヤーが勝者となります。

田中 現在も、既に多くの企業で他社事例やユースケース収集などの「情報収集」レベルはなされていますが、後発となることのリスクを考えると、PoCや有望スタートアップへの出資などを通じて、技術へのアクセス手段を確保するところまで踏み込むことが重要です。更に、「テクノロジー視点でビジネスを創造する」ための態勢構築は一朝一夕で進むものではなく、今からでも着手すべきと考えます。