田中 KPIについては、R&Dの発想で、試行回数や知財数、マーケット・インパクトといった要素を取り込む必要があります。ガバナンス面では、固定的予算・人的キャパシティを取り崩す発想だけでなく、案件単位で資金調達やケイパビリティ調達を行う仕組みも必要です。
組織・人材面では、テクノロジー企業との人材獲得競争に打って出る覚悟で、従来の保守的イメージを一新するブランディング、成果連動の報酬体系、ロケーションや雇用形態の柔軟化など、“尖った人材”を引きつける工夫が必要です。
アーキテクチャは、後発技術をプラグイン可能な構造とし、短サイクルで部分的なスクラップ&ビルドを繰り返していく発想に立つべきです。またソーシングについては、有望Tech企業やスタートアップ、アカデミアとの対等な関係性を築くため、顧客基盤や取引先へのアクセシビリティやリスクマネーなど、フィー以外の価値を訴求していくことも重要です。自社の将来ビジョンを魅力的に発信し、共感者を広げていくといった取り組みを行っている企業も海外では珍しくありません。
中村 2~3年で成果は出ないかもしれませんが、ものにならないのではないかという意見が強くなっても続けること(経営の我慢力)が大切です。よく「小さな失敗を繰り返す」ことがよいことのように言われますが、それだけでは不十分です。ブロックチェーンのような社会インフラになる可能性の高い技術の場合は、突如として潮目が急変する場合がありますから、小さく検討をしつつも、チャンスとあらば一気に大きな投資をつぎ込むことが必要です。これは既存のIT投資やテクノロジー投資では実践されてこなかったことですが、常に意識しておくべきでしょう。
さらに、いざ本格的にビジネスに使うとなれば、基幹システムとつないだり既存事業と連携させたりすることも必要。ですから、すぐにつなげられるシステムをいかに構築しておくかという点も課題になります。
田中 ここ10年ほどのデジタル化のトレンドの中で、多くの金融機関がデジタルイノベーションの専門部隊を立ち上げて取り組んできています。ただ、機動性を重視した結果、デジタル部隊が孤立してしまい、コアビジネス/コアシステムとは独立したモバイルアプリのリリースなどにとどまっているケースも散見されます。これから先、テクノロジー活用を深化させ、真に事業価値につなげていくために、ビジネス×テクノロジーが一体化したケイパビリティを育てていくことが、次のステージとして必要なのではないでしょうか。大企業はそのメリットを最大限生かしながらも、技術革新などにどう柔軟に対応できるか、また、そのために新たな体制に転換できるかどうかが今問われています。

(取材・文/河合起季 撮影/有光浩治)