3. 仕組みの壁の克服
最後に、[3. 仕組みの壁]の克服についてである。導入するデジタルソリューションが、絵に描いた餅とならないよう、一過性のものなってしまわないよう、 [3.仕組みの壁]の克服として、アクセンチュアのオペレーティングモデル改革支援において重視している要諦を述べたい。
ビジネスインパクトの見極めが重要になることは先述の通りであるが、企業として大きな効果の刈り取りを狙う取り組みとしての勢いを持続させるためには、企業内における取り組みの立て付けを、“情報システム部門が進めるこれまでのIT化の一環としてのデジタル化”というように一部門内の取り組みと小さく規定してしまうのではなく、経営としての取り組みとして位置付け進めるべきである。というのも、デジタル化の取り組みは新規性も高く、不測の事態に直面しながら推進していかねばらならないため、その過程で、往々にして、企業内では取り組みへの逆風が発生しうる。
その際に、一部門内の取り組みに留まっていれば、企業内の逆風を抑えることは難しく、期待効果の大きい取り組みも頓挫しかねない。それを回避するためにも、不測の事態も乗り越えて大きな効果を刈り取りに行く、という経営の不退転の決意を示し続けることが重要である。そして、デジタルソリューションを適用する業務が正しく遂行されねば、絵に描いた餅となり効果も減衰してしまうことから、経営の音頭の下で、テクノロジーという側面で導入・運用を担う情報システム部門に加えて、業務の実行主体であるビジネス部門の巻き込みが、効果創出において必須となる。
取り組みの位置づけと同様に重要な点は、新規導入するデジタルソリューションを定常業務の中のプロセスに必ず組み込むことである。定常業務に組み込まない限り、どれだけ見栄えの良いBI(Business Intelligence)の画面を設けたとしても、導入時点の熱気が収まるにつれて、次第に使われなくなり、効果の刈り取りもできないことになってしまう。
ここまではデジタルソリューション導入までの要諦を述べたが、導入後に効果が一過性のものとなってしまわないように、状況を把握・改善を促すための組織とKPI(Key Performance Indicator)の設計も必須となる。この際、結果指標となるKPIの設計とモニタリングの仕組みは当然求められるが、それと合わせて、結果に影響を及ぼす業務の実行状況を数字で把握できるKPIとそのモニタリングの仕組みを構築することが肝要である。例えば、在庫コントロール高度化の取り組みの場合は、在庫運用のパフォーマンスを評価する“結果KPI”として、在庫回転率や欠品率を設定、その結果に影響を及ぼす業務の実行状況を把握する“オペレーションKPI”として、対象業務の実行率やシステムからの推奨値に対する変更率などを設定する。
このような結果とオペレーションの双方をモニタリング・評価できるKPIの設定によって、デジタル化で目指す効果が損なわれることを防ぎ、改善を促進するメカニズムを企業に根付かせることができるのである。
以上、本稿では、デジタル化における3つの壁とアクセンチュアのオペレーティングモデル改革事例を通じた克服の方向性について述べた。デジタル化に悩みを持つ企業が本稿で取り上げた壁を克服し、利益創出に資する真のデジタル化を推進できることを期待したい。
参考サイト:Accenture Fulfilment Service概要

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 プリンシパル・ディレクター
一橋大学卒業(経済学部で国際貿易、商学部でゲーム理論を専攻)。アクセンチュア入社後は、小売、通信、ハイテクメーカーを中心に幅広い業種において、構想立案から実行支援・効果創出までのオペレーティングモデル改革のコンサルティングの経験を有する。
児玉 吉晃(こだま よしあき 写真・右)
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジャー
筑波大学大学院修了(コンピュータサイエンス専攻)。アクセンチュア入社後は、ハイテクメーカーを中心に幅広い業種に対して、事業戦略、新規事業立案や、ターンアラウンド、オペレーティングモデル改革を支援。小売業においても、デジタルを活用したオペレーション高度化によるロス改善・人手不足解消を支援している。