こうしたやり方は、事業に長期的な影響を及ぼす。損失が積み重なることに加え、説得力のある営業体験を生む機会が失われるのだ。

 営業部に切迫感を持たせ、最大限の努力をさせたい経営陣は、圧力を強めるという手段を取り、毎月あるいは四半期の目標達成の重要性を追求する。こうして頑張りを強いるのは業績向上のためだと、リーダーは総じて信じている。

 たしかにそれも、ある程度は大事だ。しかし一方で、収穫逓減に転じるレベルにまで追い込んでしまう、というリスクにもなる。

 ストレスがパフォーマンスにどう影響するのかは、下記のグラフを見るとよくわかる。これは、心理学者のロバート・ヤーキーズとジョン・ドッドソンが最初に考案したものだ。彼らの研究は、生理学的または心理的な覚醒によって、作業効率がいかに向上するかを明らかにしている。

 ストレスは実際に、仕事を達成するうえで助けにもなる。ただしその効果は、ある一定のレベルまでだ。ストレスが少なすぎると、パフォーマンスのレベルは低く、不安が大きすぎてもパフォーマンスは低下する。その中間の、最適なストレス度が、最高のパフォーマンスを生む。この領域を専門用語でユーストレス(快ストレス)という。リーダーは、最も望ましい成果を引き出すためには、まさにこの領域にプレッシャーを設定すべきなのだ。

 リーダーは営業部に目標達成へのプレッシャーを強めるよりも、営業担当者とともに以下の3点に取り組めば、パフォーマンスを最大化できる。

(1)卓越した営業体験の創出に重点を置く

 顧客が選択肢を吟味する際、営業体験はきわめて重要な差別化要因となる。研究によれば、営業体験は、法人営業における判断基準の約25%に影響を及ぼすという。

 たとえば、顧客自身が考慮していなかった事項や問題、気づいていなかった機会、予測していなかったソリューションを、営業側の支援によって認識してもらうことで、顧客に価値を創出する、というのも営業体験の一部である。これを行うには、営業のプロが顧客の状況に対して、調査・研究、戦略的思考、洞察力を用いることが求められる。それによって、製品やサービスを超えた体験価値を生むことができるのだ。

 販売サイクルにおけるこうした繊細な要素は、特定期間内(月間、四半期、年度末)の契約締結ばかり重視していると、損なわれる。

(2)営業の結果よりもプロセスに重点を置く

 顧客にとって有益な営業体験を創出し、競争における差別化を図るうえで、営業プロセスが道しるべとなる。営業担当者の実績につながるプロセスを構築するには、顧客側の購買方法に合わせるとよい。

 販売サイクルの各段階で、販売機会が次の段階へと進展するか否かを左右する、カギとなるアクションがいくつかある。

 リーダーは営業チームとともに、(それらのアクションの)どこで上層部の助けが必要なのかを把握しよう。たとえば、カギを握る決定権者に接触するための独創的な方法を話し合う、重要な案件をめぐる商談の戦略を立てる、その案件に関する専門家を雇い、営業プロセスの支援を仰ぎ、自社の能力の証明に力を貸してもらうなどで、リーダーは助けることができる。

(3)パフォーマンスを高めるためのコーチングに重点を置く

 複雑なソリューションを扱うコンサルティング型営業には、研修プログラムのみではけっして完全に習得できない、専門知識が求められる。必要なのは、実際の状況における実践を通じたスキル習得であり、それはコーチングによって可能になる

 リーダーが営業人材の育成に注力することは、事業の競争優位への投資を意味している。実地でのコーチングを通じて、何をすべきかを伝える優れた模範を示し、その後に実践させ、伸ばすべき具体的なスキルに関する明確なフィードバックを与え、そのフィードバックをパフォーマンスに落とし込むためのフォローアップを提供するとよい。これらを1度だけでなく、スキルが上達し熟達に至るまで、何度も繰り返すのだ。

* * *

 リーダーは、自チームのストレス度に最も大きな影響を及ぼす存在である。圧力は石炭をダイヤモンドに変えるかもしれないが、リーダーが相手にしているのは人間だ。結果を出すことは最重要の目標ではあるが、営業ノルマの達成に向けて絶え間なくプレッシャーをかけていれば、収穫逓減を招きかねない。やがてはそれが、事業全体の健全性にも害となりうる。

 リーダーが注力すべきは、チームの営業スキルを実際に向上させること、そしてパフォーマンスの向上に応じて能力を育てていくことである。そうすれば、数字は後からついてくるはずだ。


HBR.org原文:3 Ways to Motivate Your Sales Team - Without Stressing Them Out, November 21, 2019.

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スコット・エディンガー(Scott Edinger)
エディンガー・コンサルティング・グループ創設者。ハーバード・ビジネス・レビューへの寄稿論文(共著)に「リーダーシップ・コンピテンシー強化法」(本誌2012年2月号)がある。最新著書はThe Hidden Leader(未訳)。ツイッターは@ScottKEdinger