企業は包括的なリスク緩和策など持つべきではない、と筆者は言いたいのではない。必要なのは、自社のサプライチェーンと内部の組織について、次のような問いを自問することだ。
「ある1つの部分が機能しなくなったら、自分たちはどう対応すべきか。2つの部分が機能不全になったらどうするのか。自社のコンピュータシステムは冗長化されているのか」
そして、「完全に予測することが絶対に不可能な出来事に対し、リアルタイムでの検知・調整を通じて対処するために、自社はどんなメカニズムを使うのか」という問いも同等に重要であり、必須である。
企業が継続的な危機を乗り切るには、リスク管理の専門家チームのみに頼っていてはならない。そのチームが機能不全に陥ったらどうなるのか。そうではなく、危機的状況の中で生じ続ける変化を素早く検証し、シンプルな原則にもとづいて対処する、という能力を身につける必要があるのだ。
そのために企業は、事態の進展に応じて調整と適応を行えるグローバルな人的ネットワークを持つ必要がある。全社内から人を選んでチームを形成し、混乱――社内外でのコミュニケーションの欠落や、物的・人的資源の損失など――に迅速かつ適切に対応させるのだ。たとえば、もし海外の主要拠点が突然、全社ネットワークから消えた場合、彼らが急きょ立ち入って対処する。
この危機対応ネットワークに求められるのは、「危機の検知、調整、対処、再検知」のサイクルを迅速に回すことだ。協調しながら創造的に、かつ規律を持って、臨機応変に問題解決にあたる。メンバーの変更や脱退があっても、それは変わらない。
これはまさに、米国の海兵遠征軍が最大限に活用している方法である。海兵隊が非常に機敏である理由の一つは訓練にあり、企業もこれに倣うべきだ。世界各地に散在するメンバーから成るチームをつくり(メンバーは変更可)、1ヵ月おきに半日間などのペースで、危機対応のシミュレーションをさせる、といったやり方をしてもよい。
たとえば、もしも自社のアジアの工場で従業員の30%が離脱した場合、危機対応チームは何をすべきなのか。米国が国境を閉鎖したらどうするのか。「想像を絶する」シナリオに対し、チームはどう対応するのか。
目標は、特定の脅威に対処すべく、特定のルールをつくることではない。予測困難で変化が急激な状況における、問題解決の新たな方法を訓練することだ。
先の表では2種類の組織を示したが、危機において有利となるのは、自社の能力を活用でき、コミュニティ内で他のメンバーと――競合相手とさえも――協力できる組織である。企業が考えるべきは、オープンソース型の危機対応モデルを用いることなのだ。
革新的な製品を共同開発するために、企業はパートナーや競合他社を誘い入れる。危機対応についても同様に、独自でやるよりは共同で取り組むほうがよいかどうかを検討すべきだ。危機の最中、もし自社が特定の能力を失い、競合他社が別の能力を失うことになれば、取引と協働によって双方のメリットとなる機会を見出せるのではないだろうか。
最後に、多くのリーダーは危機管理について、自分の仕事ではないと考えている。ゆえにリスク緩和とセキュリティの専門家を雇う。しかし、先行き不透明な局面でも揺るがない組織をつくるには、新たなマインドが求められ、それはトップみずから組織に植えつけなくてはならない。
高度の適応能力を支える組織文化とメカニズムを築くことが、疾病の感染拡大のみならず、さまざまな危機に対する予防接種となる。そして企業の本分、つまり複雑で不確実なビジネスにおいても、再起力(レジリエンス)と競争力が高まるのだ。
HBR.org原文:What Organizations Need to Survive a Pandemic, January 30, 2020.
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