では、そのような悪影響を和らげるために何ができるのか。

 男性の反発を引き出さないように、恥ずべき過去を指摘することを避け、問題についての理解を深める機会を失うことを受け入れろというのか。そんなことはない。男性の社会的アイデンティティへの脅威を減らせれば、過去の不正義に関する指摘が受け入れられやすくなる可能性があると、私たちは考えている。

 この仮説を検証するために、私たちはさらに別の研究を行った。対象は、ビジネス専攻の学部生218人(50%が女性)。この実験では、過去の不正義に関する文章を読んだ男性の社会的アイデンティティに及ぶ脅威をやわらげることを試みた。

 過去の不平等に関する文章を読ませたあと、半数の学生(男子学生55人と女子学生48人)には、女性の権利に関する近年の進歩に関して記した文章を読ませた。すると、追加の文章を読んだ男子学生は、読まなかった男子学生に比べて、いまジェンダー差別が存在することを否定しない人の割合が大きかった。

 歴史を通じて女性の地位が少しずつ向上してきたことを示すと、男性たちは社会的アイデンティティへの脅威を比較的感じず、今日の雇用機会均等制度を支持する確率が高まるようだ。差別の歴史を指摘することが、逆効果になる場合ばかりではないらしい。

 この実験結果は、ダイバーシティや平等を促進するための措置を導入しようとする、政策決定者や組織にとって大きな意味を持つ。過去の不正義を強調することは、一見するとプログラムの説得力を高める効果がありそうに思えるが、実際には裏目に出る場合があるのだ。この種のプログラムが効果を持つためには幅広い層の支持を得ることが重要なので、男女の両方から好ましいものと思われなければ成功はおぼつかない。

 その点、私たちの研究が明らかにしたのは、男性の支持を獲得するためには過去の差別について語るだけでなく、近年の進歩も語るほうがよいということだ。そうやって思考を誘導することにより、男性が自己防衛的な発想に陥って、プログラムの足を引っ張るリスクを小さくできる。

 女性差別の問題で男性に配慮することは、本末転倒に思えるかもしれない。しかし、恵まれている集団の自尊心を守ることは、抑圧されている集団の状況を改善する施策への支持を集めるために不可欠に思える。男性たちは、差別解消に関するこれまでの進歩を知れば、自己防衛に走らず、問題を直視して、女性と手を携えた問題解決を支持するようになると期待できる。

 ただし、本稿で紹介した研究に関してはいくつか留意すべき点がある。

 まず、私たちが行った4つの実験のうちの3つは大学生を対象にしたものだ。つまり、仕事の経験が乏しい人たちを対象にした実験であることは否定できない。それでも、1つの実験は仕事の経験がある人たちを対象にしており、この実験でもほかの実験と同様の結果が得られている。

 もう1つ留意すべきなのは、私たちの実験で見られた効果が、ごく小さなものにとどまる場合があることだ。しかし、人はたいてい、ジェンダーの平等に関してどのような態度が社会で好ましいとされているかを気にするので、小さなきっかけで大きく態度を変える傾向がある。

 それに現実の世界では、採用選考時のささやかなバイアスが積み重なることで、ジェンダーの平等に深刻な打撃が及ぶ場合もある。したがって、ささやかな効果も侮れない。

 また、これがあくまでも職場における女性差別に関する研究であることも、指摘しておかなくてはならない。歴史的に抑圧されてきた集団全般についても同じことが言えると断定する材料は、まだない。しかし私たちは、ほかの集団に関しても同様のことが言えるのではないかと考えている。

 以上で紹介した研究結果には、アファーマティブ・アクションや雇用機会均等制度など、歴史的な差別を解消するための施策を成功させるうえで重要な教訓が含まれている。

 過去の不正義を指摘することは、男性の自尊心を脅かし、この種の取り組みに深刻な悪影響を及ぼす場合があるが、その悪影響をやわらげる方法はある。そのために、過去の不正義を無視する必要は必ずしもない。過去から学び、近年の進歩を知ったうえで、職場にいまだに差別が存在することを直視し、それを是正していけばよい。


HBR.org原文:Research: Bringing Up Past Injustices Make Majority Groups Defensive, February 05, 2020.


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