いま人々は、新型コロナウイルスの感染拡大に対処するために、新しい儀式をつくり出しつつあるのでしょうか。

 最近、新しい儀式を始めたり、既存の儀式を修正したりする人たちの例をたくさん目の当たりにしています。テクノロジーを活用して、それまで実践していた儀式をオンラインでなるべく再現しようとしている人も大勢います。その一方で、まったく新しい儀式を始めた人もいます。

 ある企業ではリモート会議を始める際に、メンバーがアニメ『スポンジ・ボブ』のキャラクター、パトリックの画像をクリックすることで、そのときの気分を表現することにしました。

 あまりに馬鹿馬鹿しいと思えるかもしれません。けれども、そのチームの面々にとっての効果は見落とせません。それが会議を始めるときの儀式になり、メンバーは新しい不慣れな環境で物事をコントロールできていて、馴染みのあるものに触れているという感覚を得られるのです。

 友人とコーヒーを飲んだり、お酒を楽しんだりといったシンプルなものも含めて、それまで当たり前だった対外的な儀式の多くができなくなりました。そのような状況で、人々が新しい儀式をつくり出すのは自然なことです。教会に通えなくなった人たちは、それに伴う喪失感や不安感に対処するための儀式を新たに生み出しつつあります。

 では、「これから新しい儀式を始めるぞ」と自覚的に取り組むことにも、効果があるということでしょうか。

 はい。研究室で実験参加者に所定の儀式を実践させて、それに効果があったのであれば、本人が自分のためにつくった儀式にも効果があるはずです。

 人は生涯を通じて、新しい儀式をつくり続けます。あなたの一家は家族独特の感謝祭の祝い方をし、あなたと恋人は2人だけの愛の言葉をつくり出す。ある帽子を被ったり、ある靴下をはいたり、同じ場所に座ったりすれば、応援しているスポーツチームが勝つ確率が高まるのではないかと考えた経験は、誰でもあるのではないでしょうか。

 有効な儀式は、必ずしも自然発生的に生まれるものとは限りません。自分の生活の中に意識的に取り入れてもよいのです。

 亡き夫の自動車を洗車していると述べた女性は、その儀式を新しくつくり上げました。それは、伝統のある儀式ではない。それでも効果があったのです。とりわけ効果の大きい儀式とは、その人だけの個人的なものの場合もあります。

 なかには、「毎週火曜日の夜9時にビデオ会議を使ってこれをやろう」という具合に、新しい儀式を取り入れようとする人たちもいます。そうすることで、生活に規則性をつくり出すことができます。それにより、多くの人が人生をコントロールできていないと感じている環境で、ある程度コントロールできているという感覚を取り戻す効果があるのです。

 いま不安を感じていたり、悲嘆に暮れていたりする人には、新しい儀式を始めたり、すでに無意識に実践している儀式を「儀式」として再認識したりすることを勧めたいと思います。それは、仕事上の儀式でも、家族で行う儀式でも、恋人と行う儀式でもよいのです。


HBR.org原文:The Restorative Power of Ritual, April 02, 2020.


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