見過ごせない購買行動における4つの変化

── 人類は過去に何度もパンデミック(世界的大流行)による社会の変化を経験してきました。

 歴史家のウィリアム・マクニールは、その著書『疫病と世界史』で「感染症は歴史の基本的なパラメーターであり、決定要因であり続けてきた」と主張しています。確かに歴史をひもとけば、14世紀のペストも、19世紀のコレラも、その後のパラダイムシフトのきっかけになっています。

 ペスト禍では2億人もの死者が出て農奴が激減、荘園制が崩壊して絶対王政の確立、そして、民主主義の誕生を導きました。コレラは水を媒介として世界に広がったことから、欧州の下水道設備の整備が一気に進み、都市のインフラ改革をもたらしました。とはいえ、こうした事象を注意深く見れば、パンデミックが根本的に歴史を変えたというより、「変化を加速させた」ことが分かります。ペスト以前にも領主と国王、農民と職人といった対立構造は存在していましたし、コレラ以前も社会インフラの整備は社会課題でした。パンデミックがその流れを加速させ、変化を決定付けたのです。コロナでも歴史を進める動きが散見されております。

── 今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、消費者、生活者レベルで具体的にどのような変化が起きているのでしょう。

 私たちが特に注目している変化は、「購買習慣」「サービス体験」「関係構築」「健康意識」の4つです。

 「購買習慣」においては、何といってもEC化の加速です。特に、これまで漫然と店舗で購入していた日用品は軒並みECにシフトし、買い物代行サービスも広がりました。

 注目すべきは、不動産や自動車のような高価な耐久消費財にもEC化の波が来ていることです。中国の不動産ECサービス「恒房通」は、情報収集から契約締結までの購入プロセスを全てオンライン化し、コロナ禍で業界が大打撃を受けている中で増収増益を果たしています。同社のアプリを使えば、周辺環境を含む物件情報が高精細動画で閲覧でき、さらに営業担当者がライブ配信で物件内部を案内しており、インテリアの細部まで直感的に体験できるよう工夫されています。契約書類も全て電子化されており、決済もオンラインで完了します。

 こうした事例で気付くのは、耐久財や高級財はリアルで買わねばならない、という常識は思い込みにすぎなかったのではないかということです。自動車は納車されるまで一度も実物を見る機会はないですし、不動産もカタログをめくりながらセールストークを受動的に聞かされるより、消費者にとってはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)で心ゆくまで検討した方が、深い購買体験が得られます。今、そんな気付きが広がっています。

── 購買価値の棚卸しが起きているのですね。

 そう思います。これまでも、美容院から髪を切ることだけを取り出したカット専門店や、高級レストランから料理だけを取り出した「立ち食いフレンチ」のように、従来の価値を棚卸しして本質的な価値のみをリバンドル(分離させた機能やアクティビティを再結合すること)したサービスは増える傾向にありましたが、この流れもコロナ禍を機にさらに加速すると思います。