「個別化サービス」が次のフェーズに突入
── 「サービス体験」についてはいかがでしょうか。
一言で言えば「個別化」が進んでいます。世界各地で感染予防のために広範囲で移動制限がかかった影響で、従来型のオフラインサービスが大きな打撃を受けました。一方、オンライン教育やクラウドフィットネスの分野で、個別化されたサービス体験を提供する企業が目立ちます。そもそもオンラインサービスは個人にひも付いた情報を取得しやすく、パーソナルサービスが提供しやすいので、これは当然の流れです。
中国では学校教育のオンライン化で、単に教育コンテンツを配信するだけでなく、顔認証や添削ツールを活用し、生徒の様子を可視化し、質疑応答も可能なインタラクティブ環境を提供しています。習いごとでも、ピアノ教室がセンサーを活用して演奏ミスを楽譜に記録したり、リズムや音程を電子的に評価するといったデジタルによる指導の高度化が見られます。フィットネスの分野でも、オンラインレッスンや生活指導などの新サービスが続出しています。例えば米国のフィットネス企業Pelotonは、ユーザーの自宅に置かれたエアロバイクの利用ログをリアルタイムに取得しながらインタラクティブに指導する「没入フィットネス体験」を提供しており、新型コロナウイルスの影響が強まった今年3月には、前月比5倍ものアプリダウンロード数を記録しています。
── 個別化サービスは以前からありましたが、多様性とマッチングの精度が急速に高まっている印象です。
その通りです。ただし、オンラインにも苦手分野があります。それは、モチベーションの維持やセルフガバナンスです。
例えば、ハーバード大学の教育コンテンツはかなり以前からオンラインで手に入るようになっています。しかし、これを使って1人で学び続けられる人はなかなかいません。運動も、ジムに行けば集団の力を借りて継続することができますが、1人でやる気を維持するのは難しい。アスリートが肉体の限界ギリギリまで負荷をかけた高強度のトレーニングで肉体を鍛えられるのも、チームで練習したり、試合で相手と競い合ったりする機会があってこそです。先ほど触れたPelotonでは、仲間の姿を画面で共有したり、競争心をあおるようにトレーナーから声がかけられたりといった、ゲーミフィケーション的な要素でこの部分を補おうとしていますが、効果については不確かな部分もあります。コンテンツの充実も確かに重要ですが、この点での工夫がビジネスの成否を分ける要因となるかもしれません。