「人とのつながり」がビジネスを拡大する

── 「関係構築」についてはいかがでしょうか。

 現在(2020年5月)、全世界の人口の半分にあたる約39億人が他人との接触を制限されています。そんな中、孤独感を解消するビデオチャットやグループトークのアプリが一気に浸透しました。これらを活用し、友人との会話、映画鑑賞、ライブ、イベントといった、さまざまな「人とつながる」体験がオンライン上でできるようになりました。

 動画配信のNetflixは、友人と一緒に動画を鑑賞して感想を語り合えるソーシャル機能を追加し、つながり欲求に応えています。NetflixはもともとDVDレンタルからスタートし、コンテンツをリアルからデジタルに代替することで効率を追求してきた企業ですが、このコンテンツにコミュニケーションを取り込もうとする動きで「さらなる価値向上」を探っていることが分かります。そもそも映画がデートの定番になっているのは、それがコミュニケーションを誘発するからであり、決して純粋なコンテンツとして消費されているわけではありません。そういう意味では、これは原点回帰的な動きともいえます。

 Netflixの場合はコンテンツが主、コミュニケーションが従ですが、それを逆転させたサービスも出ています。ビデオチャットアプリ「Houseparty」は「若者向けのZoom」のような位置付けのサービスで、今爆発的にユーザー数を増やしています。ユニークなのは、複数人による常時接続を前提に作られたサービスで、相手と一緒に楽しめるミニゲームのようなコンテンツをたくさん組み込んでいることです。こうしたコミュニケーションを誘発する仕掛けを活用して「大学の学食でトランプをしながらダベる」といった雰囲気の緩いコミュニケーションの場を提供しているのです。

 さらに、ゲームのFornite社で、アーティストのライブを配信し、1,200万ユーザーが集まるというコンテンツとコミュニケーションが融合し、リアルでは実現できなかった世界観と、ユーザーエンゲージメントを創造するサービスも誕生しております。

── オンライン上のコミュニティ拡大は、どのような社会の変化をもたらすでしょうか。

 人々の帰属意識が大きく変わるのではないでしょうか。日本では、企業または地域に帰属意識を持つ人が多い。今回のリモート+オンラインの流れがその構造を崩す可能性があります。対面でのコミュニケーションを前提とした、徒弟的な仕事の教え方や、「顔をつなぐ」ことを重視する日本式の地域コミュニティの在り方は、オンライン環境で維持することが難しい。関係づくりは自然に変容するはずです。一方、オンライン上のものを含めてコミュニティ数そのものは増えます。今後は企業や地域より、趣味のように自発的な興味関心でつながるコミュニティに、より強い帰属意識を感じるようになると考えられます。