ステップ(2)
パーパスの休眠状態を打破する
近年、パーパスが企業やブランドにとって重要な意味を持っていて、パーパスと利益の間に強い相関関係があるというコンセンサスが強まっている。
資産運用会社ブラックロックの創業者であるローレンス・フィンクも長年、自社の顧客に対して、そのような主張をしてきた。2019年には、米国の主要企業で構成する財界団体ビジネス・ラウンドテーブルが、「利益よりパーパスを優先させる」という趣旨の声明を発表した。この声明には、181人ものCEOが署名している。
しかし、私たちの調査によると、ほとんどのブランドはパーパス重視の面で明確な成果を挙げられていない。最近の調査に基づく「パーパス・パワー・インデックス」によれば、パーパスを持っているブランドの具体名を挙げられる消費者は27%にとどまる。
それはなぜなのか。理由はいくつかあるが、最大の要因は、ビジネスの世界では慣性の法則が強力に作用するため、これまでパーパスがあまり実践されていなかった場では、パーパスが活性化しづらいという点にある。
私たちは以前、インドのムンバイに本社を置く多国籍複合企業マヒンドラの依頼を受けて、そのような慣性を克服するために、ブランド・パーパスをつくり上げ、明確化するのに力を入れたことがある。そうすることで、社内外の独創性を解き放ちたいと考えたのだ。同社では、この取り組みを「ライズ」と名づけた。
マヒンドラの場合、慣性は、慎重さと順応主義という形であらわれていた。そのため、パーパスを活性化するには、社内外での思い切った取り組みが必要に思えた。そこで私たちは、ロールプレイングと幹部向けのコーチングを通じて、自動車、テクノロジー、金融、農業など、同社の中核的な事業部門の200人の最高幹部たちの間に、新しい「ライズ」の文化を根づかせた。
また、同社のCHRO(最高人事責任者)と協力し、「ライズ」のカルチャーに適合した資質をどの程度持っているかを、従業員の年次評価と新規採用時の選考における重要な基準と位置づけた。さらに、対外的には「ライズ・プライズ」という賞を創設し、未来のイノベーターに100万ドルの賞金を授与することにした。世界を変えられる次のビッグアイデアは、インドから生まれるかもしれないと考えたためだ。
この経験に照らすと、目下の危機の中にチャンスが潜んでいることが見えてくる。これまでのビジネスのやり方が土台から揺さぶられている状況は、ブランド・パーパスが活性化されるきっかけになる可能性があるのだ。
現在の危機で切実に求められているのは、コミュニティの安全と健康と雇用を守ること。それを実践するためには、さまざまな面で、ふつうとは言い難い措置が必要とされる。そのような必要に迫られて取る措置は、その会社のブランド・パーパスに沿っている場合もあるはずだ。
いまほど、ブランド・パーパスを活性化するのに最適なタイミングはないのかもしれない。リーダーは少なくとも、思い切ってブランド・パーパス主導で、ビジネス上の決定を下せるのではないか。