ステップ(4)
どこで、どのように行動するか
パーパス主導の姿勢は、言葉の上だけで終わってはならない。それを行動に移す必要がある。
3つの領域で行動することがとりわけ重要だ。それは、能力を見直すこと、活動を見直すこと、関係を見直すことである。
●能力を見直す
これは、最も直接的で、最も目につきやすいアプローチだ。ものづくりをしている企業の場合は、これまでの事業と関係があって、しかも危機の時期に有用な製品をつくれないか考えてみよう。サービス企業の場合は、自社のサービスを迅速に見直し、危機におけるニーズに応えることができないかを考えればよい。
いまアルコールメーカーは続々と、手指消毒液を量産し始めている。また、自動車のフォードや家電のダイソンなど、さまざまな製造企業が工場の体制を整えて、人工呼吸器をつくっている。ナイキやギャップなどのアパレルメーカーも、防護服やフェイスシールドなどの防具を生産している。
私たちが一番気に入っている例は、ペンシルバニア州のファナティクスという会社のケースだ。ナイキの依頼を受けて、野球のメジャーリーグ球団のユニフォームをつくっている会社である。
同社は、ユニフォームづくりに用いるのと同じ生地を使って、ヤンキースやフィリーズのユニフォームと同じピンストライプのマスクをつくった。過酷な環境で奮闘する医療従事者を勇気づける効果は抜群だった。
このような行動の狙いは、目の前の状況で社会に貢献をすることだが、それ以外にも思いがけない恩恵があるかもしれない。このような過程を経て自社ができることの範囲を広げれば、それが再び狭まることは二度とないだろう。
●活動を見直す
これは、いま多くの職場で切実な関心事と言える。これまで一般に職場で行っていたことをリモート勤務で行わなくてはならない人が増えているからだ。
この問題を最も劇的な形で経験しているのは、教育部門だろう。世界中の教育機関で、ほとんど事前の準備なしにオンライン授業への転換が行われた。
オンライン教育への移行は、教育機関がみずからの活動を本格的に見直したというより、異常な状況に対して一時的な対処を行ったにすぎないと感じる人もいるかもしれない。しかし、教室での教育が突然中断されたことにより、多くの教育関係者は、さまざまな教育方法の長所と短所を検討し始めている。
リアルタイムの学習と各自の都合のよい時間での学習、個別指導とクラス単位での学習の長所と短所を見極めたり、障害のある教員と学生・生徒がデジタル教室を利用しやすくすること、大学教員が家庭と研究と教育のバランスを取りやすいように柔軟な授業形態を導入することの利点を考え始めたりしているのだ。
これまでのやり方が通用しなくなれば、激しいストレスを感じるが、その経験を通じて見えてくることもある。その状況に適応することにより、自社のパーパスをさらに推進できるか。パーパスに準拠して考えた場合、新しい取り組みの一部を拡張して、もっと多くの思わぬ恩恵を得られるようにできるか。こうした問いの答えが明らかになる。
●関係を見直す
このことが持つ意味も大きい。これは、従業員、取引先、顧客など、ブランドに最も近い利害関係者に関わるものだからだ。
民間経済調査機関である全米産業審議会(コンファレンス・ボード)の社長で、文具・オフィス用品チェーンのオフィス・デポの元CEOであるスティーブ・オドランドは、本格的な不況を避けたいなら、従業員を解雇してはならないと強く主張している。
テクノロジー業界の億万長者でセールスフォースのCEOであるマーク・ベニオフは、人々がこの危機を乗り切れるようにするために、90日間にわたり解雇を行わないという誓約をするよう、ほかの企業のCEOたちに呼び掛けた。誓約に参加したCEOの会社では、この危機で従業員を不可欠なパートナーと位置づけたことにより、従業員との関係が恒久的に変わるだろう。
ビジネスパートナーとの関係では、外食チェーンのウェンディーズが4000万ドルの広告費の支出を取りやめて(本来は朝食の新商品を宣伝するキャンペーンを行う予定だった)、その資金をフランチャイズ加盟店の支援に回した。具体的には、ロイヤリティや賃料の支払い期限を延ばしたり、店舗改修義務の履行を1年延期したりといった措置を講じた。
顧客との関係を見直す機会もたくさん生まれる。特筆すべき例としては、多くのオンラインメディアが新型コロナウイルス関連の記事を無料で公開していることが挙げられる。
それまでは有料で記事を配信する方針を取っていたメディア企業が、この普通でない時期に、パーパスに基づいて行動しようと話し合ったのだろう。今回これらのメディアの記事を読むようになった新しい読者の多くは、いまの状況が落ち着いたあとも購読し続けるのではないか。
数週間後になるか、数ヵ月後になるかはわからないが、いずれ、いくらか形は変わるにせよ、ビジネスは平常に戻るだろう。いまビジネス上のパニックをブランド・パーパスに転換したブランドは、その日までに自己を再発見し、ミッションを見つめ直すことを通じて、これまでより手ごわくて質の高い課題を追求できるようになっているかもしれない。
HBR.org原文:Shift Your Organization from Panic to Purpose, April 27, 2020.
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