(3)出社する社員を守るには、どうすればよいか

 職場の安全を確保するうえで最も重要なのは、ほかの人にウイルスを感染させるリスクが特に高い人を職場に入れないことだ。私たちの調査によれば、45%の企業はサーモグラフィーを導入して、発熱している社員を識別し、自宅での待機を指示しているという。米国雇用機会均等委員会(EEOC)も、感染症の流行期には、社員に体温チェックを要求しても米国障害者法(ADA)に違反しないとの判断を示している

 ただし、新型コロナウイルスの感染者は、少なくとも最初のうちは発熱しない場合が多い。そこで、体温チェックだけでなく、出社を再開する社員の聞き取り調査も行う必要がある。

 陽性者と接触しなかったか、家族に体調の悪い人はいないか、咳、息切れ、寒け、筋肉痛、喉の痛み、味覚・嗅覚障害などの症状がないかを尋ねる。また、感染のリスクを下げるために、部外者の来訪を制限している企業も多い。

 こうした聞き取り調査を行うために、モバイルアプリやウェブフォームを利用する企業もあるし、職場の掲示物で注意喚起する企業もある。こうした調査でリスクありと見なせた社員には、企業の判断により自宅待機を命じればよい。職場再開の初期には、自宅待機の対象を狭めすぎるくらいなら、広げすぎるくらいのほうがよいだろう。

 有給の疾病休暇を取得できる人は、そうでない人に比べて、体調が悪いときは出社を控える可能性が高い。有給の疾病休暇制度を導入しようと思えばコストがかかるかもしれないが、感染している社員が出社することで生じるコストはもっと大きいかもしれない。

 米国疾病対策センター(CDC)は、ほかの人と1.8メートル以内に近づく人に対して、布製マスクの着用を推奨している。企業は、出社を再開する社員にマスクの着用を義務づけ、マスクを配布するとよい。

 マスクを着用し続けるのは快適でないときもあるし、飲食するときまで着用し続けるわけにはいかない。それでも、呼吸器疾患の感染拡大をある程度防ぐ効果はある。社員に対しては、マスクは自分を守るためというより、同僚を守るためのものだと説明しよう。

 しばらくは握手も避けたほうがよい。握手の代わりに、肘と肘をぶつけ合う挨拶を行う人もいるが、これも対人距離が近くなりすぎる危険がある。

 職場は、社員同士の間の距離を1.8メートル以上取れるように設計しよう。この原則は、一人ひとりが間仕切りスペースの中で仕事をする場合も、大部屋のオフィスや工場の組み立てラインで仕事をする場合も守るべきだ。

 また、職場で社員が列をつくって並ぶ状況も極力なくしたほうがよい。社員食堂のレジなどで並ばざるをえない場合は、床にしるしをつけて、距離を取って並ぶよう促すとよい(社員食堂では、サラダバーや手づかみで食べる食べものの提供は、感染拡大を助長しかねない。個装してある食べもののほうが安全だ)。

 社員には、なるべく自分のデスクで食事するよう促そう。職場の共用キッチンに人が密集しないように、利用を事前申込制にしてもよい。手洗いの励行も引き続き呼び掛けるべきだ。

 1.8メートルの距離を確保できるように、会議室の利用人数を制限することも必要になる。会議室に収容しきれないくらい会議の出席者が多い場合は、一部の出席者は(たとえ同じビルの中にいても)リモート参加にすればよい。製造業や小売業の現場、オフィスの受付などでは、アクリル樹脂の透明パーティションを設置することにより、感染リスクを減らすことができる。

 私たちの調査では、97%の企業は、職場の清掃と消毒を強化し、手指消毒液や表面消毒液を用意したと回答している。新しい研究によれば、モノを介したウイルス感染のリスクは低いとされているが、自動販売機やドリンクサーバー、プリンターなどの表面を消毒用シートでたびたび拭くようにし、キーボードや電話のヘッドセットなどの事務機器の共有もやめるべきだ。

 冷水器や製氷機は感染リスクを高めかねないので、電源を切ってしまおう。トイレのハンドドライヤーも使用禁止にして、代わりにペーパータオルを置いたほうがよい。

 社員の感染が明らかになった場合は、症状が出る2日前までさかのぼって、その人物と接触した可能性のある社員に通知するべきだ。そうした接触者たちは出勤停止にし、自己隔離をさせる必要がある。ただし、感染した社員の氏名を公表せず、プライバシーを守ることは徹底すべきだ。