(4)職場の安全性を高めるために、検査をどのように活用すべきか

 現状では、職場再開の安全を確保するうえで、検査が果たせる役割はきわめて小さい。検査は、コストが高く、実施できる件数に限りがあり、正確性も十分ではないからだ。

 検査の感度が低く(つまり、偽陰性率が高く)、ある人が陰性だという結果が得られただけでは、その人物を職場に迎え入れても安全だとは言い切れない。ただし、感染者と接触した人の中から無症状感染者を割り出す目的であれば、検査は有用かもしれない。

 迅速診断ができる現場即時検査の機械は、1時間に数件しか処理できないし、職場で対象者の鼻腔を拭ってサンプルを採取することには、それ自体に感染リスクがある。

 血液サンプルを用いて行う抗体検査は、新型コロナウイルスでは偽陰性率が高く、過去の感染症では擬陽性率が高いことがわかっている。しかも、抗体検査で陽性になり、過去に新型コロナウイルスの感染歴があることがわかったとしても、その人が免疫を持っていて今後は感染しないと見なせるかどうかは、現時点で明らかになっていない。

5)職場から感染者が出た場合、どうすればよいのか

 新型コロナウイルスに感染した人は、初期にはほとんど、あるいはまったく症状があらわれない。そのため、会社がどれだけ徹底して努力を尽くしても、職場に感染者が立ち入ることを防げない場合がある。前述したように、感染している疑いのある社員や来訪者がいる場合は、ただちに退出するよう求め、検査や治療を受けるよう促すべきだ。

 感染者が過去1週間の間に長時間滞在した部屋は、立ち入り禁止にして、消毒を行う必要がある(ただし、飛沫が空中から落ちるまで24時間待ってから消毒したほうがよい)。換気の頻度を増やしたり、窓を開けたりすることも、感染リスクを下げる効果が期待できる。

 職場で感染者が出た場合は、症状があらわれる2日前までさかのぼって、その人物と1.8メートル以内の距離で10分以上過ごした社員をすべて洗い出す必要がある。そのうえで、それらの社員にも自宅待機を命じ、最後に感染者と接触してから14日間、自己隔離を行い、症状の有無を監視させなくてはならない。

 廊下やエレベーターですれ違った程度の接触であれば、自己隔離はしなくてもよい。交通機関や医療機関など、社会インフラに関わる必要不可欠な業務に携わる人たちは、感染者と接触した場合、マスクの着用と対人距離の確保を徹底し、職場の消毒を強化すれば、職場に復帰してもよいかもしれない。

(6)出張はいつ再開できるのか

 国外への出張は、感染拡大が収まるまで再開できそうにない。多くの国は、外国からの渡航者を受け入れている場合も14日間の隔離を要求している。しかも、国外出張から戻った人は、帰国時にも隔離が求められる可能性がある。

 国際ビジネスでは当分の間、直接対面する代わりに、引き続きビデオ会議を用いることになるだろう。ワクチンが実用化されるか、有効な治療法が開発されるか、集団免疫が実現するまでは、国外出張が本格的に再開されることはなさそうだ。

 国内の出張も、しばらくは制約される。新たに感染者が発生した地域では、人の移動が制限される可能性が高い。そのような地域に出掛けた出張者は、長期にわたり足止めを食う可能性がある。

 しばらくは、国内出張の手段として自家用車の利用が増えるかもしれない。自家用車で移動する場合は、感染リスクが比較的小さいからだ。

 一方、鉄道、バス、航空機による出張が本格的に再開されるまでには、さらに時間がかかるだろう。また、再開されたあと、鉄道やバスや航空機の便数がすぐに元通りにならなければ、出張先の都市での滞在時間が長くなりかねない。

 必要な場合は、現地でホテルに泊まることは問題がない。大半の宿泊施設は、清掃と消毒を強化しているはずだ。ただし、それでも消毒剤を持ち込んで、自分で消毒を行うに越したことはない。

 いずれにせよ、企業のリーダーは、状況の変化に応じて、出張の方針を明確に示し、それを徹底させるべきだ。