(7)精神面と感情面の健康に関する社員のニーズに、どう対処すべきか
コロナ禍により大きな喪失を経験し、それを悲しむ機会すら十分になかった社員も少なくない。そうでなくても、ほとんどの人はいま、孤独を感じている。
不安や抑鬱症状に悩まされる人は、今後もさらに増えるだろう。新型コロナウイルス感染症から回復した人やその家族は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような状態になる可能性もある。
コロナ禍の前、多くの企業は、社員にメンタルヘルス関連のサービスを提供する体制がきわめて貧弱だった。しかし、その種のサービスに対するニーズは、いまいっそう高まっている。企業はこの課題に取り組む必要がある。
私たちの調査によれば、58%の企業は、音声や画像を利用した遠隔の行動療法セッションの提供体制を拡充したと回答している。従業員支援プログラムの周知徹底を強化したと述べている企業も83%あった。
ある種の認知行動療法は、モバイルアプリでも効果がある。今後は、メンタルヘルスの問題に対処するためのデジタル・ソリューションの活用が増えるだろう。マインドフルネスや瞑想のプログラムが有効な社員もいるかもしれない。これらの活動でも、オンライン・プログラムの重要性が高まっている。
孤独の問題に対処するためにバーチャルな交流ネットワークを確立し、管理職に適切なトレーニングを行い、リモート勤務中の社員のメンタルヘルス面のニーズに注意を払わせ、必要な場合はしかるべき専門家に紹介させることも有効だ。家族や子どもの世話をしなければならないといった事情を考慮したり、エクササイズで体を動かし、仕事以外のことをする時間を取るよう促したりすることも、社員の感情面の健康を支える効果がある。
(8)職場の再開に関して、どのようにコミュニケーションをすればよいのか
虚偽の情報や根も葉もない噂は、ウイルスに負けないくらい、またたく間に広がる。企業は、頻繁に正確なコミュニケーションを取ることにより、社員の信頼を勝ち取らなくてはならない。
社員はおそらく、出社することに不安を抱いている。企業は、清掃や消毒の徹底、出社させる社員のスクリーニング、対人距離を確保するためのさまざまな変更など、社員の安全を守るために取っている対策について、特に伝えるべきだ。
このような情報は、社内のイントラネットや人事部のウェブサイトなどで告知するだけでなく、メールなどのプッシュ型のコミュニケーション手段によって定期的に伝えたほうがよい。
コロナ禍の中でどのような行動が適切かについて、視覚的なコミュニケーションを通じて社員に伝えることも重要だ。たとえば、大勢の社員が狭い空間に密集している場面を映した写真を使うことはやめたほうがよい。
また、医療現場以外の場所で、人々がフェイスシールドやN95マスクなどの医療用防護具を着用している画像も用いないようにしよう。これらの専門家向けの防護具は、まだ供給が不足していて、必要な医療現場に行き届いていないのだ。しかも、医療現場以外での使用は推奨もされていない。
最後にもう一つ。感染症が流行すると、排外主義や差別、社会的スティグマ(負の烙印)などが生まれやすい。リーダーは、一部のグループや個人がその標的にならないように気を配り、そうした行為に対して、きっぱり反対の意思を表明すべきだ。
1918年にインフルエンザ(スペイン風邪)が蔓延した際、アフリカ系米国人が感染を拡大させたという事実無根の非難を浴びたのと同じように、今回のコロナ禍ではアジア系の人たちへのヘイトクライムが増えている。
私たちの調査では、47%の企業がコロナ禍におけるスティグマをやわらげるための措置を講じていると回答している。対策を計画していると答えた企業も21%あった。しかし、3分の1近くの企業が対策を計画していないことも事実なのだ。
無意識のバイアスの悪影響を抑えるための対策と、差別反対のコミュニケーションと研修を行うことは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)を実現するための取り組みの核を成す活動だ。このような活動の重要性は、いまひときわ高まっている。
新型コロナウイルスは、企業と世界に対して、短期間で大きな影響を及ぼしている。本稿で紹介した対策は、社員を守り、地域コミュニティを守り、会社の評判を守るだけでなく、職場の再開を円滑に進めるための手立てにもなる。
HBR.org原文:8 Questions Employers Should Ask About Reopening, May 28, 2020.
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