白人の経験を標準と位置づける
もう一つ、メラクとビーマンの研究結果が重なり合うのは、米国社会において支配的な白人文化が、白人の経験を標準と位置づけているという点だ。白人以外の人種の経験をすべて排除している場合も多い。
社会学者のウェンディ・レオ・ムーアが指摘しているように、白人中心の場で有色人種の学生と教員が成功するためには、みずからの経験をわきに置いて、既存の文化に「溶け込む」必要があるのだ。
メラクはこれまでの研究活動に関して、白人女性の声を取り上げず、黒人女性の経験を中心に据えることが妥当なのかと問われ続けてきた。このような疑問を呈するリベラル派の白人教員たちは、意識的かどうかは別にしても、知的対話を白人中心のものに引き戻し、白人のほうが優れていると見せようとしていると言える。
幸い、このときはメラクを擁護してくれる人がいた。そのおかげで、白人女性の視点を通して、メラク自身を含む黒人女性の主張を正当化する必要がなかった。
メラクの研究によれば、組織の中で人種や人種差別の問題について声を上げる人と同調する人たちは、冷遇される場合が多い。人種間の平等と公正という強力なテーマについて立場を鮮明にしたり、人種差別な慣行を批判したり、その組織が現状の継続に加担していると指摘したりする人は、眉をひそめられるのだ。
その結果、このような「政治的」活動に取り組む人たち――白人中心の組織で「黒人的すぎる」人たち――は、難しい立場に立たされる。大小問わず、人種的攻撃を問題として指摘したり、そうした問題意識を持つ人に公然と同調したりする人は、要注意人物とみなされて不利益な扱いを受ける可能性がある。
今後進むべき道
以上の点を考えると、本稿の冒頭で投げかけた問いが再び浮上してくる。
真の変革に結びつくような建設的対話を行うことは可能なのか。有色人種が沈黙させられる状況を変えられるのか。白人中心の組織がここにきて突然、人種間の正義について慌てて声明を発表するようになり、このあとどのような変化が起きるのか。それらの組織は、いま盛り上がりを見せている運動に加わっていると見せたいだけなのか。
私たちが思うに、いま組織が取るべき最も重要な行動は、変革を起こすための明確で具体的なステップを示すことだ。それは、管理者やリーダー層だけではなく、一人ひとりの白人たちの思考と行動を変えるものでなくてはならない。
大学が人種間の正義や社会正義を肯定する声明を発表する際は、みずからにこう問いかけよう。
なぜ、いま声明を発表するのか。現在、黒人のフルタイムの教員は何人いるのか。あなたは有色人種の同僚たちに敬意を払い、その人たちの言葉を真剣に受け止めているか。有色人種の同僚たちの仕事をサポートできているか。有色人種の同僚たちが負わされている「目に見えない労働」を認識しているか、それとも、人種問題に関する先生役を期待することでそのような負担をいっそう増やしているのか。
あなたの組織で、同僚たちは不公正な扱いに不満を述べているか。勇気を持って人種差別的な慣行に異を唱えた同僚に対して、どのような態度を取っているか。あなたは、人種差別を否定したり、人種に関して無知だったりするなど、自己防衛的な行動(「白人脆弱性」という言葉で表現される)を取り、有色人種の同僚たちの尊厳を踏みにじっていないか。
あなたがリーダーの地位にあるなら、有色人種の同僚から助けを求められたことはあるか。そのとき、どのような態度を取ったか。意思決定の場で、変革を推し進めるために声を上げただろうか。
本稿で紹介した私たちの経験に触発されて、アカデミズムやそのほかの世界で声を上げる人がもっと増えてほしいと思う。街頭での抗議活動の熱が冷めたり、有色人種の同僚を支援することで自分が代償を被ることになったりするとしても、ぜひ行動を起こしてほしい。
責任を持った行動が必要だ。進歩派の白人たちよ、私たちはあなたの行動を見ている。あなたは、私たちのことが目に入っているだろうか。
HBR.org原文:Academia Isn't a Safe Haven for Conversations About Race and Racism, June 25, 2020.
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