(1)素朴な質問と建設的な異論を奨励する

 本稿の筆者の一人(ガードナー)が以前働いていたコンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、このことを「反対意見を唱える義務」という言葉で表現していた。社員が互いの考え方に疑問を投げ掛け合い、新しいアイデアを提供することは、容認されているというにとどまらず、義務として期待されていることなのだ。

 専門が異なる同僚に説明を求めたり、専門用語の意味を質問したりした際に、間抜けな印象を持たれるのではないかと心配する人は誰もいない。新しい複雑な問題に対処するために、さまざまなスキルの持ち主を結集させることにより、グループ全体で見れば、その状況に潜むリスクと問題解決策に気づきやすくなる。

 その効果は、人々が質問するよう促された場合、とりわけ大きい。特定の分野のエキスパート一人では、リスクや解決策を見落としかねない。

(2)仕事を抱え込む人物に警戒する

 社内の人々がどのように行動しているかを知るために、どのような情報に注目すればよいかを考えよう。

 実は、社内でどのようにコラボレーションが実践されているかを映し出すデータには、研究助成金の給付状況や製品開発の状況がわかるプロジェクトマネジメントのデータベースや、セールスのパイプラインを把握できるCRMシステムのデータベースなど、さまざまなものがある。

 リーダーが利用できるデータは多い。そのことを指摘すると、これまで筆者らが接してきたリーダーたちはほぼ例外なく、驚いた顔をする。

 もし、このようなデータが手に入らない場合は、手短な調査を繰り返し行い、メンバーにみずからの行動を自己申告させてもよい。注意深く設計された3問の調査は、回答するのに数分しかかからないが、それを通じて、どこで個人志向の行動が頭をもたげ始めているかを明らかにできる。

 たとえば、以下のセンテンスにどの程度賛同するかを5段階で回答させてもよいだろう(1=強く反対、5=強く賛成)。(1)自分たちのグループは目的意識を共有している。(2)グループ内に強い信頼感がある。(3)誰かが成果を上げた場合に、同僚も評価されることがよくある。

(3)現場と接点を持つ

 組織階層における地位が低い人たちと直接接点を持つようにしよう。フィルターを通さずに、現場の人たちの行動と心理を知ることが狙いだ。

 この点は、リモート勤務が実践されているときは、ことのほか重要な意味を持つ。リーダーはこのようなやり取りを通じて、現場の社員がどのように問題に対処しているかを知り、社内のどこで個人志向の行動がはびこりやすいかを見出し、メンバー同士の結びつきを確立できる。そしてメンバー同士の絆は、メンバーが互いに支え合う助けになる。

 大手保険会社リバティー・ミューチュアルの幹部アーリーン・ザライエットは、1800人の部下を持っている。ザライエットは最近、ビデオ会議システムを活用して、部下の近況報告のために毎月18件のグループミーティングを始めた。新人レベルの社員もその対象だ。

 ある日のミーティングで一人のアフリカ系米国人の事務スタッフが発言し、新型コロナウイルスの感染拡大により自分たちのコミュニティが大きな打撃を被っていると語った。これをきっかけに、ダイバーシティに関する自社の取り組みが持つ価値について、そして、さまざまなタイプの社員がコロナ禍を乗り切るためにどのような支援が必要かについて、重要な議論が始まった。

(4)自社のパーパスとゴールを頻繁に補強する

 自分の携わっている仕事が高次のパーパスに資するものだと思える人は、ほかの人たちと足並みを揃えて行動しやすい。つまり、そのような人はコラボレーションに積極的になる。目指すべき目標を知れば、自社がビジネスを遂行するために自分の知識がどの面で役に立つかがわかり、同時に、自分一人の知識だけでは十分でないことも理解できる。

 リーダーはメンバーの不安を和らげ、自信を高めることにより、同僚と手を差し伸べ合うよう促す必要がある。たとえあなたのメッセージそのものは変わっていなくても、そのメッセージを繰り返し発信したほうがよい。世界が変わっている以上、メンバーはそれまでの方向性のままでよいのかを知りたいと思うものだからだ。