当初の予想と実際の結果

 今年(2020年)の2月と3月に新型コロナウイルス危機が始まったとき、企業のリーダーたちはきわめて短期間の間に、将来への展望を修正する必要に迫られた。当時さまざまな予測が示されたが、その時点での一般的な予測と現在の状況が大きく食い違っている点が5つある。

(1)影響が過小評価されていた

 新型コロナウイルス危機が始まった当初、経済への影響についての予測は大きく揺れ動いた。

 たとえば、米国の第2四半期の経済成長率に関して、株式ブローカーの予測の中央値は、3月半ばの時点では0%前後だった。しかし、その後の20日間で、予測の中央値は30ポイント急落した。それ以降、予測の中央値はマイナス35%前後で落ち着いた(これは年率の値。前四半期との比較ではマイナス10%に相当する)。

 実際の値はおおむねこの通りになったが(年率でマイナス33%。対前四半期比ではマイナス9.5%)、ブローカーの間の予測のばらつきは非常に大きかった。あとで数値が修正される可能性はあるにせよ、成長率が歴史的に見ても大幅に下落したことは間違いない。予測が大きくばらついたことは、既知の経験の範囲外でのモデル化の限界を浮き彫りにしている。

(2)金融システムの安定性に及ぶリスクが過大評価されていた

 コロナ危機のあまりの深刻さに、金融システムが崩壊するのではないかという不安が持ち上がった。流動性と支払い能力に関わる問題が実体経済と金融経済に波及することが懸念されたのだ。

 その結果として「新たな大不況」が始まるのではないかという不安が高まる一方で、前例のない政策的な対応の産物として、インフレが進行するのではないかという不安も増大した。インフレが進めば、米国の債務危機の引き金が引かれて、ドルの覇権が終わりを迎えかねないとまで恐れられた。

 このような不安はまだ消えていないが、いまのところ不安は現実になっていない。金融政策が金融システムへのストレスを和らげ、空前の財政政策が実体経済のバランスシートを下支えしたためだ。

(3)新興国と先進国で明暗がわかれるという予測が誤っていた

 当初は、貧しい国よりも豊かな国のほうがうまく危機を乗り切れるという予測が一般的だった。貧しい国は政策的対処の手段が乏しいと考えられていたためだ。

 しかし実際には、国の経済力とコロナ危機の結果(医療上の結果も含む)との間に明確な相関関係は見られていない。いわゆる新興国と先進国にそれぞれ分類される国の中でも大きな違いがあること――たとえばブラジルと中国の間には大きな違いがあるし、米国とギリシャの違いも大きい――は、新興国と先進国を二項対立でとらえた予測が間違っていたことを実証している。

(4)景気回復の「型」の多様性を過小評価していた

 危機が落ち着いたあとの景気回復がどのような道筋で進むかについても、多くの議論がなされた。初期に最も一般的だったのは、「V字型」回復を予想する見方だった。つまり、危機前のトレンドが取り戻されるという予測である。

 現時点ではこのシナリオが有力に見えるが、最終的にどのような形で景気回復が実現するかはまだ見えてきていない。すでにV字型回復を遂げた国もあるし(中国がその典型だ)、米国内でもそのような業種がある。たとえば、小売り売上高と住宅販売高は急反発し、危機前の水準を上回っている。

 景気回復の「型」がどうなるかについて、現時点で結論を出すのはまだ早い。それは、どれだけ速く景気が回復するかではなく、最終的にどのようなプロセスで危機前の成長率を取り戻すかに関わるものだからだ。

 それでも危機前のトレンドに戻ることが次第に難しく見え始めたということは、現時点である程度の確度を持って言えるかもしれない。資本ストックの増加ペースが減速していることが原因だ。

(5)長期的な影響が生じる範囲を過大評価していた可能性がある

 きわめて甚大な危機に見舞われた結果、コロナ後の時代にはすべてが変わるとの予測が広がった。現段階で判断を下すのは時期尚早だが、差し当たり3つのことが見えてきた。

 まず、経済の構造が大きく変わることは考えにくいということ。米国経済は、特にそうなる可能性が高い。また、上述したように、経済構造にどのようなダメージが及ぶかがまだ流動的だということ。そして、その半面で、ミクロ経済や人々の行動に起きた変化の多くがこのまま定着しそうだということ。そうした変化の結果、一部の業種や企業は逆境の中でチャンスを見出せるだろう。