
感染症の流行による在宅勤務の強制は、私たちの働き方にいかなる影響を及ぼしたのか。惰性で参加していた無駄な会議はなくなり、上司や同僚から突然呼び止められることもなく、自分のスケジュールを自己管理しやすくなったことで、知識労働者の生産性を向上させていることが、筆者らの調査により明らかになった。
本稿の執筆陣は長年にわたり、知識労働者の生産性を数値評価するという難題に取り組んできた。
知識労働者の仕事量と成果は、建設労働者や小売店の品出し担当者、コールセンターの職員などと同様の方法によっては測定できない。知識労働者は、課題に関して主観的判断を下し、いつ、何をするかを自分で決め、(しばしば誰にも気づかれずに)脳の労力を節約して仕事の手を抜くこともできてしまう。こうした事情があるため、知識労働者の生産性を高めることは簡単でない。
筆者らは2013年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に寄稿した論文で、自分たちが行った研究を紹介した。その研究によると、知識労働者は仕事の時間の3分の2を会議や事務作業に費やしている。そのような活動を退屈に感じているにもかかわらず、である。
筆者らの論文では、顧客との対話や部下のコーチングなど、もっと有意義な活動に費やす時間を増やすための方策をいくつか提案した。もっとも現実には、一定の行動パターンから抜け出すのは誰にとっても難しい。オフィスで日々その行動を繰り返すことにより、行動パターンがいっそう強化されていくからだ。
しかし、2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大により、状況が大きく変わった。コロナ禍をきっかけに、多くのオフィスワーカーは突然、在宅勤務への転換を余儀なくされ、新しい働き方を確立しなくてはならなくなった。
リモートワークへの移行から数カ月、筆者らの日々の仕事のスケジュールは様変わりした。ほかの多くの人たちの日常も変わったのだろうか。それを知りたいと考えて、2013年の研究と同様の調査を再度行うことにした。質問項目は前回と同じものを用い、調査対象には前回と似たような属性の人たちを選んだ。
この新しい研究により明らかになった重要な点は、以下の通りだ。
・ロックダウンにより、人々は本当に重要な仕事に集中できるようになった。大人数の会議に費やす時間は12%減り、顧客や社外のパートナーとやり取りする時間は9%増えた。
・ロックダウンにより、人々は自分のスケジュールを自分で決めやすくなった。自分自身の選択で(つまり、自分がそれを重要だと思うからという理由で)行う活動は50%増え、誰かに指示されて行う活動は半分に減った。
・ロックダウン期間に、人々は自分たちの仕事をそれまでよりも価値あるものと感じるようになった。自分たちが実行している活動を、顧客と自分自身の双方にとって価値あるものと考えるようになったのだ。すべての活動のうち、退屈と感じる活動の割合は27%から12%に減り、簡単にほかの人に任せられると感じる活動の割合は41%から27%に減った。
要するに、ロックダウンは少なくとも短期的には、知識労働者の生産性に好ましい影響を及ぼしたと言える。しかし、長期の成果と創造性と個人のレジリエンスの面では、いくつかの懸念材料と課題が見えてきている。
本稿では、筆者らの研究結果を詳しく紹介したうえで、今後に向けてどのような機会と課題があるのかを論じたい。