懸念と課題

 ロックダウンを通じて、人々は重要だと考える活動を優先的に行い、自分の判断で行動するようになったと言えるだろう。しかし、これで話を終わりにしてはならない。調査対象者への追加の聞き取り調査を通じて、一人ひとりの働き手が――そしてリーダーたちが――頭に入れておくべき懸念材料も浮かび上がってきた。

 一部の調査対象者は、無責任な姿勢が助長されかねないという懸念を述べている。ある人物は、「怠ける人が出てこないか心配だ。皆、自宅で働くことでリラックスしすぎていると思う」と語っている。

 もっとも、筆者らが思うに、これはそれほど重大な問題ではない。アウトルックやスラックなどのデジタルツールを用いて、人々がどれくらいの時間働いているかを事実上モニタリングする手立てはある。それに、そもそも知識労働者は、どれくらいの時間働いたかではなく、どれくらい成果を上げたかを基準に評価されるべきだ。

 それよりも懸念すべきなのは、リモート環境ではうまく行えないことがあるという点だ。たとえば、横へのマネジメントについて考えてみよう。

 すでに活動しているグループがリモートに移行することはそれほど難しくない。しかし、新しいチームをつくる場合(チーム形成プロセスの初期段階に当たる「形成期」と「混乱期」)や、内部に対立を抱えている場合は、きわめて難しい課題に直面することになる。

 ズームなどのビデオ会議でこれらの課題に対処できないわけではないが、直接対面する時ほど円滑には運ばない。非公式のオンラインでの会合を通じてやる気をかき立てられる人は、それほど多くない。ある調査対象者は、こう述べている。「これまでメンバーの一体感を生んでいた絆が少しずつ失われつつある」

 上へのマネジメントと下へのマネジメントも、リモート環境で簡単になるわけではない。

 調査対象者の大半は部下や上司と定期的に1対1で話す機会を設けていたが、目先の課題や私生活上の状況が話題になることが多く、長期の能力開発はあまり話し合われない。難しい問題を徹底的に掘り下げる機会がないのだ。「ビデオ会議では、ほかの人の意見に異論を唱えることが難しい。どうしても自制してしまう」と、ある調査対象者は述べた。

 チームが成長する機会が失われたことを残念に感じている人たちもいる。ある人物はこう述べている。「以前は、チームのメンバーに新しい課題を割り振ることがよくあった。それにより、メンバーは実際の仕事を通じて学び、経験豊富な同僚の仕事ぶりを見て学習することができた。バーチャルな世界では、こうしたことはほぼ不可能だ」

 また、みずからの能力開発について不安を抱く人たちもいた。ロックダウン期間中、自己学習に割かれる時間は増えた。しかし、それは主としてオンラインセミナーやオンライン講座での学習だった。

 そうした取り組みにより知識は増えるかもしれないが、人が真に成長するためには、それだけでは十分でない。主体的な実験と個人的な内省が不可欠なのだ。

 この先しばらくの間、多くの人は、人と人との接触を減らすためにリモート勤務を続けなくてはならないかもしれない。

 この新しい試みが始まって以降、これまでに見えてきた好材料がある。それは、リモート勤務により、知識労働者が主体的にスケジュールをマネジメントして、みずからの活動の優先順位を決められるようになり、付加価値の大きな活動に割く時間を増やせるということだ。

 今後、一部の対面型の会議が許されるようになった時には、以前のオフィス勤務が可能にしていた非公式な対話や社交の要素を取り戻すことが大きな課題になる。組織と個人が成功するためには、これらの要素が欠かせないからだ。


HBR.org原文:Research: Knowledge Workers Are More Productive from Home, August 31, 2020.


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