実践的なアドバイス

 ケーススタディ(1)周囲の人たちからどのように思われているかを伝え、行動を改めるためのコーチングを行う

 キース・スビラルはキャリアの初期に、ブラッド(仮名)という人物をマネジメントしていたことがあった。ブラッドは、飛び抜けて頭脳明晰で、野心に満ちていて、才能豊かな社員だった。しかし、同僚の気分を害するような言動がしばしば見られた。

「ブラッドはとても高い知能の持ち主でした」と、スビラルは言う。「仕事上のチャンスだけでなく、対処すべき問題に対しても、極めてアカデミックなアプローチで臨んでいました。そのせいで、職場での人間関係は良好とは言えませんでした」

 たとえば、同僚と直接話すことがほとんどなかった。自分の考えを同僚に伝えたい時は、主として長文でけんか腰の文書を執筆して読ませていた。

 同僚たちは、ブラッドのことをお高くとまっていて、自分だけ特別だと思っていると感じていた。ブラッドがほかの人に意見を求めることはめったになかった。「周囲との関係はとてもピリピリしていました」と、スビラルは振り返る。

 スビラルは、マネジャーとして手を打つ必要があると感じた。そこでブラッドを呼び出して、「称賛の言葉を交えつつも率直に」話をしたという。「あなたのスキルは、我が社の中で非常に高いレベルにあります。けれども、それが原因であなたは難しい状況に陥っています」

 スビラルは、ブラッドが職場の同僚たちからどのように思われているかを話した。「そのうえで、こう言いました。『周りの人たちに協力してもらえるようになれば、もっと大きな成果を上げられるでしょう』」

 実は、ブラッド自身も「何かがまずい」と感じていた。そのため、スビラルに指摘を受けて自分を変えることへの抵抗はなかった。「ブラッドは高い成果を上げていた人物です。(昇進の)妨げになる問題は、すべて取り除きたいと思っていました」

 スビラルは、同僚との関係を改善するうえで有効な振る舞い方を具体的にいくつか指南した。「同僚の席まで足を運んで直接言葉を交わし、ほかの人たちの意見やアイデアを尋ねることが重要だと伝えました。『ジェーン、私はこう思っています。あなたはどう思いますか』といった会話の大切さを強調したのです」

 やがて、ブラッドは同僚との関係をうまくマネジメントできるようになっていった。いまは、同僚たちから尊敬されて、称賛されている。

 とはいえ、物事が一夜ですべて変わったわけではないと、スビラルは言う。

 現在はシカゴのアポクロマティック所属の認定プロフェッショナル・コーチとして活動しているスビラルは、このように語った。「コーチングはコーチと本人の両方にとって、長い学習と努力のプロセスです。それでも時間をかけて努力を重ねれば、成果はあらわれます」