ケーススタディ(2)率直に話し、マネジャーの個人的な経験を伝える
スーザン・ジョーンズ(仮名)は、ある大手テクノロジー企業で10年以上にわたり、リーダーを務めていた人物だ。才能があって野心家の部下のマネジメントについては、言いたいことがある。
「威圧的な性格の持ち主をマネジメントした経験は、たくさんあります。実は、恥ずかしながら、私自身もそのような人物だった時期があります」と、ジョーンズは言う。
特に際立っていたのが、ある直属の部下――フィルと呼ぶことにしよう――との経験だ。「(フィルは)自分の振る舞いが同僚に及ぼす影響をまったく気にしていませんでした」と、ジョーンズは振り返る。「それでも、非常に聡明で、創造性に富んでいて、とても仕事ができました。私としては、チームから外したくはないと思っていました」
同僚たちは、フィルに対して強い不満を抱いていた。マネジャーとしては、このまま放置するわけにはいかない。そこで毎週定例の1対1の面談の場で、彼の行動がチームに悪い影響を及ぼしていると伝え、言動を改めてほしいと言い渡した。
また、同僚との関係が悪いままでは出世に響きかねないことも伝えた。強引に自分のアイデアを押し通すのではなく、協力者や友人を増やし、コンセンサスを育むことの重要性も説明したという。
「同僚に対する彼の態度は、チームに対しても、彼自身に対しても、先々まで悪影響を及ぼしかねないものでした。その点を長時間話し合いました」と、ジョーンズは振り返る。
ジョーンズは、自分自身の過去の経験についても話した。「私も以前は、強引に突き進むタイプでした。そのような振る舞いを続けていれば、私のキャリアに大きなダメージが及んでいたかもしれません」と、ジョーンズは振り返る。「でも、私は幸運でした。よきメンターがいて、軌道修正させてくれました。私はアプローチを修正し、キャリアにも好ましい影響があらわれました」
ジョーンズは、こうしたメッセージがフィルに伝わることを願っていた。しかし、フィルの行動はまったく変わらなかった。
「非常にいら立たしい思いでした。彼はとても頭がよく、パフォーマンス指標に照らせばケチのつけようのない成績を残していました」と、ジョーンズは言う。「ところが、同僚の反感を買っていたのです。しかも、それがなぜ問題なのか理解できずじまいでした。成果を上げているのだから問題ないと、思っていたのでしょう」
その後、ジョーンズはその会社を去り、いまはキャリアコーチとして活動している。フィルとは連絡を取り合っていないが、噂は時々、耳に入ってくると言う。「主にフリーランスの立場で、同レベルのポストを渡り歩いているとのことです。人間関係の問題を克服できないことが理由だそうです」
HBR.org原文:Managing a Top Performer Who Alienates Their Colleagues, April 13, 2021.