●分離のメリット
「私はこの牧歌的な人里離れた環境でロックダウンの時期を過ごした」と筆者に語ったジョンは、パンデミックが始まった頃に企業幹部の役職を退き、郊外に引っ越したビジネスマンだ。
「春が来て、終わるのを見ることができた」と彼は言う。「たくさんの自然を見ることができ、それは驚くほど平和な光景だった。去年結婚したので、妻と非常に多くの時間を過ごした。疎遠になっていた息子も訪れてくれ、彼のことをまた知ることができ、素晴らしい経験になった。とても幸せな時だった」
ジョンのような経験は珍しくない。引っ越しが行動の変化をどう促すかを調べた研究によれば、パンデミックの際にそれまでとは違う住居を見つけた人は、その後に定着する人生の変化を起こす可能性が高いと考えられる。
その理由は「習慣の不連続性」にある。人は誰しも、古い習慣や古い自分を引き起こす人物や場所から離れると、より柔軟になるのだ。
変化は常に分離から始まる。洗脳、テロリストの洗脳解除、薬物乱用者のリハビリなど、究極のアイデンティティの変容であっても、標準的な手法はそれまでの対象者を知る人々から引き離し、古いアイデンティティの基盤を奪うことだ。若者が大学に進学すると変化するのも、この分離のダイナミズムが理由だ。
筆者は最近の研究で、私たちの仕事のネットワークがいかに「ナルシシスティックと怠惰」のバイアスに陥りやすいかを明らかにした。私たちは自分と似ている人に自然と惹きつけられ、関係を維持する(ナルシシスティック)。また、近くにいることで簡単に知り合い、好きになる(怠惰)。
今回のパンデミックで、ほとんどの人が少なくとも物理的な近接を妨げられた。しかし、特に急いで職場や出張、社会生活に戻ると、ナルシシスティックと怠惰のバイアスが仕事にもたらす強烈な類似性を軽減することはないかもしれない。だからこそ、以前の仕事上の生活を特徴づけていた人間関係のネットワークからある程度距離を保つことが、変化するためには不可欠なのだ。
ワシントン大学のタミー・イングリッシュとスタンフォード大学のローラ・カーステンセンは、60歳を過ぎるとネットワークの規模が小さくなることを明らかにした。それは人とつながる機会が減るからではなく、時間が限られているとの認識を強め、選択的になるからだ。
ジョンがしたようなパンデミックでの経験の多くが、限られた時間を誰とどのように過ごすかを選択する力を養い、変化につながるかもしれない。