プロセスやツールは足場にすぎない
アジャイルのプロセスやツールは助けになるが、アジャイル手法を支える中心的なメカニズムは、スクラムやスプリントではない。それよりも、チームの対話的プロセス――チームメンバー間でのコミュニケーションのあり方――が最終的に成功を左右する。
対話的プロセスは、チームが相互依存的な仕事を遂行するうえで、知的摩擦(つまり意見の対立)をどう活用するかを示すものである。チームメンバーは、ギブ・アンド・テイク、押して引くこと、話して聞くこと、質問して答えること、アクションとリアクション、分析と解決ができているだろうか。あるいは、互いにあら探しをして自己防衛的になっているだろうか。
アジャイルのコア技術は本来、技術的でも機械的でもなく、文化的なものである。アジャイルチームは協働による対話的プロセスを実現するために、最終的には心理的安全性――脆弱性が報われる環境――を拠り所にする。
高度の心理的安全性は、イノベーションを目標とする動作反応を引き出す。心理的安全性が低い場合は、生き残ることを目標とする恐怖反応を誘発する。問いを提起すること、間違いを認めること、アイデアを探索すること、現状に異議を唱えることをチームメンバーがやめると、アジャイルではなくなる。
たとえば、開発チームに恐れがまん延していたら、ラピッドプロトタイピングなどできるはずがあろうか。あるいは人事チームが、意図せぬバイアスに左右されかねない行動について、安心して指摘できなければ、公平な候補者選びなどできるだろうか。詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの一節を借りれば、心理的安全性がなくては「すべては解体し、中心はみずからを保つことができない」のだ。
率直なフィードバックを提供したり、型にはまらないアイデアを探索したり、多数派に異議を唱えたりすることが「罰せられるべき脆弱性」となる場合、人はそれらを実行しなくなる。
脆弱性をどのように罰するのだろうか。批判し、恥ずかしい思いをさせ、落胆させ、沈黙させ、名誉を傷つけ、矮小化し、いじめ、威嚇する。その時点でチームの対話的プロセスは行き詰まり、やがて崩壊しかねない。
2週間のスプリントを実施している製品開発チームのスクラム会議に、筆者が同席した時の例を挙げよう。残念ながら、このチームには心理的安全性というコア技術が欠けていた。
用心深く自己防衛に専念していたチームは、対話的プロセスが破綻したことで、結局は失敗に終わった。精神的にも組織政治的にも、声を上げることの負担が大きくなるにつれ、彼らは次第に口を閉ざしていった。互いの脆弱性を罰することで、チームの敏捷性をみずから阻害したのだ。
チームの解散後、筆者は公式に事後分析を行い、9人いたメンバー一人ひとりに聞き取りを実施した。皮肉なことに、チームの全員がアジャイルのプロセスとツールに関する幅広い訓練を受けていたのだが、それらによって救われることはなかった。彼らを救えたであろうものは、心理的安全性を置いてほかにない。
以下は、協働的で有能なアジャイルチームの育成に向けて、心理的安全性を高めるための5つの実践的な方法である。