この観点からすると、ウーバー、リフト、ドアダッシュといったITプラットフォームに労働を提供してきた4000万人のアメリカ人は、新たな労働の世界で危険が迫っていることを知らせてくれる「炭鉱のカナリア」といえるかもしれない。彼らがいま経験していることを、今後その何倍もの人々が何らかの形で経験する可能性がある。
もちろん、これらの問題には簡単な解決策はない。問題の多くは実存に関係し、社会レベルでの価値観や優先順位の見直しが必要になるだろう。とりあえず、これまでと同じ方法では、仕事での自己実現や自己表現は、かなわなさそうだ。アイデンティティを支える伝統的な手段が失われつつある中、仕事で自分にとって価値ある自己定義(自分自身の価値評価)を見出せるかどうかは、革新的なテクノロジーやビジネスモデルを集団でどのように活用、あるいは誤用するかにますます依存するだろう。
たとえば、アルゴリズムによるマネジメントを、労働者に脅威を与えず、労働者の人間性を奪わずに展開するにはどうすればよいのか。コロナ禍や大退職時代を経験した労働者がキャリアに望むことを見つめ直すことができるよう、アイデンティティの根底にあり、それを動かす力のある物語に目を向けるべきできはないか。メタバースのようなリアルに近い没入型のデジタル環境は、将来、労働者のアイデンティティを発揮する場として機能するのか。Web3、とりわけ新しい組織形態(「DAO」と呼ばれる分散型自律組織など)の出現は、労働者にとって重要なキャリア、つながり、そして社会的意義にどのように影響するのか。独立したワーカーが望ましいワークアイデンティティを形成し維持する上で、ソーシャルメディアプラットフォームやオンラインディスカッションフォーラムなどのバーチャルな「給湯室」が果たせる役割は何か。すなわち、ますます抜け目のないリソースマネジメント術が展開される中で、どのように人間的な要素を維持するのか。
いまこそ、これらの問いに真剣に取り組むべきだ。こうしたテクノロジーやビジネスモデルを設計し、指導し、規制する人々(ソフトウェアエンジニア、CEO、政治家)しかり、その影響について研究し、教え、対処を助ける人々(研究者、教育者、臨床心理学者)しかりである。
世界中の独立したワーカーの幸福がそれに懸かっている。彼らの多くが、仕事という文脈の中で「自分は何者なのか」という問いに答えられずにいる。
"Dehumanization Is a Feature of Gig Work, Not a Bug," HBR.org, June 23, 2022.