●ただちに悲惨な出来事について触れる

 いち早くチームに声をかけることが重要だ。「悲惨な出来事が起きた」と言葉にすることは、最初のステップとして大切だが、多くのリーダーはそれを実行していない。

 筆者の場合は、「特に子どもを2人持つ母親として、非常に心を痛めていること。そして、このような社会の状況を嘆いていること」と「メンバーの誰もが自分自身をケアし、互いに支え合うために必要なことをしてほしい」と、スラックでチームに伝えた。同様の発信を、それぞれの組織に適したコミュニケーション手段で行うことだ。

 ●相手を思いやる会話の機会を設ける

 1対1、そしてグループで会話をする機会を意識的に設ける。まずは、自分自身のアイデンディティと、話をする相手のアイデンティティを考える。チームメンバーは、暴力的な事件のターゲットと同じデモグラフィックグループに属しているか。それともターゲットにされたグループとは別のコミュニティに属しているか。それに応じて、自分がどのようなアプローチを取るか考えなくてはならない。

 DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉) とメンタルヘルスは密接に関連しており、悲惨な出来事が起きた時に受ける影響は、自分が持つ複数のアイデンティティがどこで交差しているかによって異なる。私たちは、これらの経験や感情を抱えながら、仕事をしているのだ。

 会話を切り出す時には、まず自分自身の感情を伝え、人間としての弱さを認める。たとえ些細なことであっても、自分の感情や弱さを打ち明けることによって、相手も心を開きやすくなる。

 チームメンバーが何を感じているのか推測してはいけない。そうではなく、関心を持って相手の話を聞くことだ。相手がどのような状況にあるかを確認したうえで、相手が自由に回答できる質問を投げかける。

 たとえば、1対1で話す場合には、まず「この大変な状況で、あなたはいくつも締め切りを抱えていますね」と、相手が置かれている状況を自分が理解していることを伝える。その後に、「どのようにサポートすればよいですか」といった質問を続ける。

 相手が話を始めたら、傾聴し、もっと話をしてほしいと優しく促す。たとえば、一言「それについて詳しく聞かせてください」と伝えることができるだろう。最後に、相手の感情を認めることだ。自分に話をしてくれたことに感謝し、相手の経験を肯定し、必要に応じて便宜を図り、リソースを提供する。

 組織の文化によっては、グループディスカッションに違和感を感じることもあるかもしれないが、とにかくやってみることだ。信頼とつながりの文化が築かれていけば、このような会話を交わすのに難しさを感じなくなるだろう。そのためには、できるだけ安全だと感じられる場をつくる。相手がリモートで参加している場合に、ビデオをオフにしたければ、そうしてよいことをあらかじめ伝えておきたい。

 筆者のチームは結束が固いが、ユヴァルディで起きた銃乱射事件後のミーティングでは沈黙の時間があり、それを気まずいと感じたメンバーもいたかもしれない。それはそれでかまわない。大切なのは、思いやりと共感を持って、チームに自分の姿を見せることである。