●先回りして具体的な解決策を提供する

 チーム全員が、それぞれ異なるものを必要とし、また望んでいるはずだ。相手によっては、それが何かを教えてくれる場合もあるかもしれないが、自分でも何を必要としているのかわからなかったり、そもそもどのような選択肢があるのか知らなかったり、聞きづらかったりする場合がほとんどだろう。

 最初のメッセージでは、筆者がそうしたように、必要であれば時間をかけることを勧めるが、フォローアップとして、1対1の会話の場で質問や具体的な提案をする。あらゆる選択肢を提示しよう。理想としては、優先順位や締め切りを調整したり、柔軟性のある勤務時間を認めたり、長期休暇や病気休暇とは別の有給休暇を提供したりすることが挙げられる。

 筆者らは、メンバー全員に半日休暇を与えることにしたが、いま思えば、事態の重さを考えると、もっと長い休暇を与えるべきだったかもしれない。

 いずれの方法を取っても、従業員のほうから申請させたり、彼ら自身が解決するのは困難な問題について考えさせたりする負担をかけずに済む。また、従業員が何を必要としているのか、勝手に憶測することも防ぐことができる。たとえば、筆者のチームでは、メンバーの少なくとも一人は、困難な時期であっても、たいていの場合は仕事が気晴らしになると感じているという。

 自社のメンタルヘルス関連の福利厚生について、周知徹底する。正直言って、これは最低限必要なラインだ。なぜならば、メンタルヘルスをサポートする文化がなければ、どれだけよい福利厚生があっても利用されない場合がほとんどだからだ。

 職場のメンタルヘルスに取り組む組織である筆者らでさえ、というより、そうであるからこそ、チームにメンタルヘルス関連の福利厚生をすべて伝え、利用に問題がある場合には、HRチームのリーダーが支援を申し出ている。自社の計画の中に、組織の文化に精通した支援者がいれば、なおよいだろう。

 さらに、組織内外で利用できるほかのリソースについても情報を共有する。メンタルヘルスに取り組む従業員リソースグループ(ERG)をはじめとするアフィニティグループ(類似性を持つ少数の集団)は、特定のコミュニティに特に必要とされるピアサポートを提供できるはずだ。

 マインド・シェア・パートナーズではここ数年、さまざまな記事や組織、リソースに関して情報を収集して、広く公表している。そこには、銃乱射事件やウクライナ戦争に関するニュースに触れた時の対処法のほか、黒人やアジア・太平洋諸国系米国人(AAPI)、LGBTQ+(性的少数者)に対する暴力や差別が行われた時にそのようなグループの従業員が利用できるリソースがまとめられている。

 ●スティグマと闘い続ける 

 銃乱射事件が起きると、すぐに加害者の精神的問題のせいだと決めつけることが多いのは、残念なことだ。それはまったく事実に反している。

 MentalHealth.govによれば、「暴力行為のうち、個人が抱えている深刻な精神疾患に起因するものは3%から5%にすぎない。むしろ、重度の精神疾患を抱えている場合、暴力犯罪の被害者になる可能性が10倍以上高い」という。実際、対人暴力の予測因子は、それ以外に数多く存在する。

 繰り返しになるが、メンタルヘルスの問題が憎悪の原因になることは、断じてない。

 精神的問題を銃乱射事件のスケープゴートとして利用することには、メンタルヘルスに対するスティグマ(負の烙印)を助長し、治療を受けようとする人を減らすという恐ろしい副作用がある。メンタルヘルスの問題は、誰にでも起こりうることを従業員に理解させなくてはならない。気づいているかどうかにかかわらず、ほとんどすべての人が、人生のどこかで診断可能な精神疾患を経験するのだ。

 職場で何かしらの仕組みが導入されていない場合には、予防的な観点からも、リーダー、マネジャー、個人を対象にしたメンタルヘルス研修を導入する。メンタルヘルスとは何であり、何でないか。職場で、どのような問題が現れるのか。メンタルヘルスが悪化する原因となりうる職場の要因に、どのように対処すればよいか。研修を通じて、理解のレベルを合わせることができるはずだ。

 職場でメンタルヘルスの問題に対処するためのツールや戦略、たとえば、自分の弱さの示し方、難しい会話の進め方、インクルーシブでサステナブルな文化のつくり方などは、最終的にはメンタルヘルスとDEIを考慮したマネジメントのベストプラクティスとなる。