
2023年のテクノロジートレンド
将来を見通すことは、常に難しい課題である。新年は、自社の戦略を新たな視点で見直し、どこに注力するか計画を練るよい機会だ。しかし、ハイプ(過剰な期待)と実際のトレンドを区別するのは難しいかもしれない。
テクノロジーに関しては特にそうである。2022年初め頃の、NFTと暗号資産とメタバースをめぐる熱狂を考えてみよう。その後、2022年の秋にはNFT市場は90%下落し、暗号資産は冬の時代に入り、活気に満ちたメタバースの出現は現実よりも夢に近いままだ。本物のイノベーションと大風呂敷を区別できるかどうかが、大きな成功と手痛い失敗の分かれ目となりうる。
2023年はテック業界にとって少し地味な1年になりそうだ。地政学的および経済的な不確実性によって、次の段階にテクノロジーが進化することに対して、警戒感が高まっている。ビジネスリーダーに求められるのは、より少ない労力でより多くを達成する方法を模索すること、複数のイノベーションが重なり合う部分に価値を見出すこと、そして転換点を迎えているテクノロジーに戦略的に投資することである。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのテクノロジー・プラクティスを担当するグループが、2023年を展望した。本稿では、テクノロジーに関する見通しをいくつか提示する。
組み合わせによるトレンドに目を向ける
ラレイナ・イー、サンフランシスコ
2022年に我々は、仕事と生活のあり方に変化をもたらしうる14のテクノロジートレンドを特定した。その中には宇宙技術、クリーンテック、AI、没入型リアリティ技術などがあった。
経営幹部にとって2023年の課題は、それぞれのトレンドへの投資や、ソフトウェアエンジニアの増強に留まらない。さまざまなテクノロジーが併用されることで、どのように新たな可能性が生じるのかを考えることが求められる。我々はこれを「コンビナトリアル・トレンド」(組み合わせによるトレンド)と呼んでいる。
消費者向けから事業者向けまで、あらゆる業界において、コンビナトリアル・トレンドは新しく刺激的な可能性を生んでいる。可能な組み合わせは無数に考えられるため、「材料の混ぜ方」で創造性を発揮することが成功のカギとなる。
新型の電気自動車に伴うテクノロジーを考えてみよう。車の接続ネットワークを動かすクラウドとエッジコンピューティングがあり、自律的判断と運転ロジックを可能にする応用AIと機械学習がある。新型の軽量複合材やバッテリー性能の向上といった、電動化の中核を成すクリーンエネルギーとサステナブルな技術がある。次世代型のソフトウェア技術によって、顧客向け機能の開発が加速し、製品化するまでの時間が短縮される。トラスト・アーキテクチャーによって安全なデータ共有が確立される。
これらのテクノロジーを組み合わせることで、モビリティの新たな未来を拓くための自律性、接続性、知能、そして電動化を結び付けるのだ。
また、血液型に基づく治療や、細胞の標的化といった、個々の患者レベルの新たな治療法も同様だ。生体工学(細胞組織工学に基づく新たな治療法など)、没入型リアリティ技術(遠隔治療など)、Web3(電子カルテの記録のトレーサビリティ、相互運用性、永続性など)、応用AIと機械学習(画像処理や、予測に基づく健康状態の通知の精度向上など)、クラウドとエッジコンピューティング(データへのアクセスとデータ処理能力の向上など)といった、複数の技術の進歩が相まって実現している。
そのインパクトは単純な足し算ではなく、掛け算的だ。
2023年には、こうした組み合わせのアプローチの一部が規模を拡大していくと見込まれる。mRNAワクチンの開発を導いた手法──ゲノミクス、応用AI、機械学習の産業化といった生体工学に伴う技術の組み合わせ──がほかの病気に応用されているのも、その一例かもしれない。
最先端分野ではないが経済的に極めて重要な、物流の課題に対しても同様の兆しが見られる。サプライチェーンのフレキシビリティとレジリエンスを高める手段として、進化したモビリティ、高度な接続性、応用AIの組み合わせが適用されるだろう。
今後1年間のテクノロジーへの投資計画を練る際には、総合的に考え、複数のテクノロジーがどのように連動して新たな可能性を引き出すのかを検討しよう。