アラインメントを見つける

 包括的な柔軟性を、一時的な解決策や、選ばれた一部の人に与えられる特権にしてはならない。むしろ、包摂的で生産的な職場に必須のものとして、組織文化に根づかせなければならない。これを達成するためには、2種類の調整(アラインメント)が必要である。

・何を:業務をその人が持っている強みに合わせ、調整する。人は、得意分野において、より創造性や革新性を発揮する。複数の研究を分析した結果によると、仕事への満足度、仕事へのエンゲージメント、幸福感、仕事のパフォーマンスはすべて、自分の強みを活かして働くことと相関がある。

・どのように: 場所や時間を含む働き方を、個人の生活、健康ニーズ、エネルギー量に合わせる。柔軟な働き方は、ワークライフバランス、生産性、組織の成果を高めることが世界中のデータによって示されている。真の「ウイン・ウイン」である。

 筆者はコンサルティングの仕事を通して、チームや企業がこの包括的な柔軟性を戦略として採用し、成果を上げるのを支援してきた。ある成長企業のマーケター、ジェナとセリーヌ(いずれも仮名)のケースを考えてみよう。

 ジェナは、ビジョンやコピーの立案、イベントの企画、ショーや協議会への出席を担当していた。彼女はクリエイティブな業務を気に入っていたが、出張の多さがストレスと不安の原因となり、またそのために勤務時間が長引く傾向にあり、健康を損なうようになっていた。そして彼女は、その仕事を辞めることを考えていた。一方セリーヌは、パートタイムのグラフィックデザイナーで、さらに仕事をしたい、人と会いたい、出張に出たいと切実に願っていた。彼女は行き詰まりと不満を感じていた。

 才能ある2人は、それぞれの強みを活かした働き方をしていなかった。幸い、それを解決するのは簡単だった。セリーヌは、まさしくジェナを疲弊させていた仕事をしたかったのだ。そこでジェナは、人前に出る仕事をセリーヌに任せ、残業を減らした。これにより、2人の従業員はそれぞれの強みに合った仕事と、ニーズに合ったスケジュールで働くことができるようになった。2人の心身の健康と組織への帰属意識は大きく改善された。同社のマーケティング活動の成績は急上昇し、市場シェアが大幅に拡大した。

 チームレベルでは、マネジャーはこのようなジョブクラフティングで従業員をサポートすべきである。従業員のジョブクラフティングには3通りある。業務にさらなる意味や目的を見出せるように、業務に対する考え方を変える認知的クラフティング。職場での他者との関わり方を再編する対人的クラフティング。そして、特定のタスクの責任範囲や性質を変えるタスククラフティングである。ジェナとセリーヌは、タスククラフティングのサポートを受け、それがみんなのためになった。

強みのアラインメント

 従来の適材適所のアプローチは、仕事に適した個人を見つけることに主眼が置かれている。これに対し、「強みに基づく働き方」では、個人が最も得意とすることに合わせて業務をカスタマイズすることが求められる。

 職場における脳の多様性(ニューロダイバーシティ)と複数の社会的弱者グループに属している従業員の帰属意識に関する、筆者の近刊The Canary Code(未訳)で述べるように、多様な強みやニーズを持つ労働者の生産性を引き出している先進的な企業から多くのことを学ぶことができる。

 業績を伸ばしているインドのホテルチェーン、レモンツリー・ホテルズを考えてみよう。レモンツリーは57カ所に91のホテルを持ち、障害者の雇用に力を入れている。当初は聴覚障害者を数人雇用していたが、現在ではダウン症患者、アシッドアタック(硫酸などを顔などにかけられた)の生存者、その他社会から疎外されたグループの人々を多数雇用している。同社の成功に、「個々の強みに基づくアラインメント」は欠かせない要素である。

 たとえば、レストランのサービス係の仕事には、2つのまったく異なるタスクがある。正確なテーブルセッティングやビュッフェプレゼンテーションなど、多くのスタッフが反復的で退屈だと感じる仕事と、メニューの説明や注文取り、お客に追加のドリンクや料理を注文させるといった、ほとんどのスタッフがより楽しいと感じる接客の仕事だ。

 レモンツリーの創業者であるパトゥ・ケスワニは、この2つの仕事に対して異なる人材を雇うことができることに気づいた。彼は、ダウン症の従業員の多くが、テーブルやビュッフェのセッティングを楽しみ、得意としていることに気づいた。これにより、他のスタッフは接客の仕事に集中できるようにもなった。

 レモンツリーはまた、従業員が自分の業務を果たせるように、アダプティブ・ジョブ・マッピングを採用している。つまり、さまざまな係と細分化されたタスクを障害に応じた形でわかりやすく示している。たとえば、ダウン症の従業員には、タスクが時系列に図示され、夜勤のないスケジュールが組まれる。聴覚障害のある従業員と一体になるために、全従業員がインド手話の研修を受けている。

 業務を人に合わせる努力は報われる。たとえば、聴覚障害のある客室係は、その他の客室係よりも生産性が約15%高く、ダウン症の従業員も一般的な従業員よりも生産性が高い。同社は、これまで排除されていた人々に柔軟な就労機会を提供してきたことで数々の賞を受賞し、わずか数年でインド第3位のホテルチェーンとなった。

 マリアンヌ・マルケージが設立し、フランチャイズと不動産に特化した商業法律事務所リーガライトは、包括的な柔軟性に対する独自のアプローチ「ワーク・バイ・デザイン」を開発した。業務には、それぞれに必須の資格や技能要件があるが、身体障害、発達障害、妊娠中などの従業員は、能力や興味に合わせて仕事を共同で設計(コデザイン)するよう勧められる。

 法律と人事の知識、法的および技術的スキルの組み合わせなど、従業員のスキルや専門知識に基づいて創出されたユニークなクライアントサービスや商品もある。たとえばある弁護士は、コーディングのスキルを活かして、事務所の文書作成ボット「フランキー」を開発した。同社は、2022年のオーストラリアン・ビジネス・アワードの「エンプロイヤー・オブ・チョイス」に選ばれるなど、多くの称賛を得ている。

 強みをベースにしたアライメントのもう一つの好例は、米国を拠点とするリモートファーストの品質エンジニアリング会社、ウルトラノーツである。同社のサイトによると、「ウルトラノーツ(の従業員)の75%は発達障害があり、従業員の半数以上が自閉症です。ADHDやディスレクシア(読字障害)のメンバーも多く、言葉を話せない人や耳の不自由な人もいます」とある。

 従業員は全員、入社時に「バイオデックス」という個人の取扱説明書を記入し、自分の好む学習スタイルや仕事スタイル、そして刺激や集中の妨げになるものを伝える。同社の共同創業者であるラジェッシュ・アナンダンによると、フィードバックなど、職場におけるすべてのプロセスが配慮と支援のある設計になっているという。昇進は、コミュニティエキスパートによるスキル評価に基づくため、個人の強みに重点を置いたキャリアアップが可能になっている。

 近年、同社の収益は毎年50%増加し、従業員の仕事の質は非常に高い水準を維持している。フォーチュン100の企業が、グローバル企業からウルトラノーツのサービスに乗り換えている。

 レモンツリー、リーガライト、ウルトラノーツは、包摂性を意図的に組み込むことができた比較的若い(それぞれ2002年、2017年、2013年設立)企業である。しかし、個人の強みに基づくアプローチは、さらに長い歴史を持つ伝統的な企業でも奏功している。

 たとえば、シーメンスは、1847年に設立され、現在では世界中に30万人以上の従業員を抱えるドイツに本拠を置く世界的なエンジニアリング・テクノロジー企業だ。同社は2020年からコンサルティング会社のストレンススコープと提携し、採用候補者とラインマネジャーが個人と職種のマッチングを行い、キャリアパスや育成計画を立てられるようにしている。

 ストレンススコープの強み診断は、採用プロセスにおける任意の要素である。応募者は質問票に回答するかどうかを選択でき、そのリポートを利用して面接の内容を深め、自分の強みとシーメンスでの仕事がどうマッチするかを検討することができる。また、リポートを共有しない選択もできる。シーメンスは、ベータテストを経て、ストレンススコープを利用した人事プログラムを27カ国、6言語で展開している。