柔軟性のアラインメント
働き方の未来について語る際、決まって焦点となるのが在宅勤務だが、職場における柔軟性にはさまざまな形がある。
時間の柔軟性は、従業員が自分のニーズに合わせて勤務時間を調整できることである。たとえば、子どもを迎えに行くために午後早めに帰らなければならなかったり、障害のある従業員が混雑のピークを避けるために始業時間を遅らせる必要があったりする。製造業やサービス業の最前線で働く従業員など、柔軟な働き方に関する議論で見過ごされがちな職種でも、シフト選択に柔軟性を取り入れられることを強調しておきたい。
場所の柔軟性は、自宅、サテライトオフィスやコワーキングスペースなど、どこからでも仕事ができる選択肢を従業員に与えることである。これは、通勤が苦手な従業員や、集中するために静かな環境が必要な従業員にメリットがあるが、他の多くのニーズにも対応する。
モードの柔軟性は、対面、バーチャル、またはそれぞれの比率を決めたハイブリッドモデルなど、従業員が自分にとって最も効果的なモードで働けるようにすることである。たとえば、対人不安のある従業員は、主にオンラインで仕事や会議をするように配慮するのがベストかもしれない。また、従業員の中には、対面業務か対面業務の割合が多いハイブリッド環境で、構造化、感覚刺激、動機付けなどの最適化が必要な人もいるだろう。このタイプの柔軟性は、人材を惹きつける上で重要な要素である。
リモートワークテック企業のスクープが最近発表した企業の従業員数に関するリポートによると、ハイブリッド型や完全フレックス型の勤務形態を採用している企業は、フルタイムのオフィス勤務を義務づけている企業の2倍の割合で従業員を採用している。
継続の柔軟性は、従業員が休暇を取れるようにすることである。ほとんどの国に女性の産前産後の有給休暇制度があり、男性の育児休暇もますます一般的になってきている。しかし、サバティカルや心の健康、介護、疾患、勉学のための長期休暇なども、従業員に喜ばれている。たとえばドイツには、燃え尽き症候群(バーンアウト)回復休暇を数カ月に及んで取得できる規定がある。継続の柔軟性は、ストレスで疲弊した従業員への消極的な最終手段としてではなく、従業員のウェルビーイングやエンゲージメントを高める積極策として導入すべきである。
仕事量の柔軟性とは、フルタイム勤務、パートタイム勤務、またはジョブシェアリング(通常、他のパートタイム従業員との間で)ができることである。これにより、障害や子育てなどの生活上の理由で、従来のようなフルタイムで働くことができない人にも、雇用の機会を与えることができる。仕事量の柔軟性はあらゆる職種において可能であり、継続の柔軟性と組み合わせることで、従業員の幅広いニーズに対応することができる。
パートタイム雇用の提供は、企業にとって採用と多様性を向上させるうえで最高のツールであり、それがなければ応募できない人材を呼び込むことができる。たとえば、保険会社のチューリッヒが、英国におけるすべての求人広告に「パートタイム」「ジョブシェア」「柔軟な働き方」という文言を追加したところ、女性からの応募が16%増加した。また、管理職に応募し、採用された女性の数も増加した。
画一的になってしまう問題を廃し、ハイブリッドな勤務形態を採用するための戦略は数多くある。企業の観点からいえば、リモートワークの要素は、状況に合わせていくつかの方法で取り入れることが可能だ。オンサイトで働く人とリモートで働く人を分ける「人の分割」、全従業員が対象のオンサイトの日とリモートの日を分ける「時間の分割」、リモートをデフォルトとし、特定の職種やプロジェクトメンバーが必要に応じて対面で仕事をする「リモートファースト」、対面をデフォルトとし、必要または許可ベースでリモートワークを行う「オフィスファースト」などがある。
業務の性質上、特定のアプローチが必要な場合もあるが、多くの業務は、このどれを使っても問題なく遂行できる。従業員が意思決定に参加することで、ストレスを最小限に抑え、生産性を最大化するハイブリッドの形を見つけることができるかもしれない。
弁護士という職業は、通常、激務や仕事最優先のイメージがある。リーガライトほど、それとかけ離れた事務所はないだろう。柔軟な勤務形態と勤務時間のおかげで、発達障害や身体障害のある従業員がほぼリモートで働きながら、キャリアアップもできている。
こうした勤務形態は、妊娠や育児も支えている。従業員は、ワークライフバランスを維持するために、必要に応じて勤務日を振り替えることができる。子どもの行事に参加したり、ワーキングホリデーを楽しんだり、時間によって働く場所を分けたりしながら、実績もしっかりと積んでいる。柔軟な働き方と引き換えに、降格する必要はないのだ。
障害者や脳の多様性を重視した企業でなくても、柔軟性のメリットを享受できる。たとえば、米国に本社を置く世界的な防衛・航空宇宙技術企業であるロッキードマーチンは、「4XFlex」と呼ぶ正社員向けのフレックスタイムを導入している。社員は、2週間で75時間、8日または9日働き、長めの週末を得る。リモートワークと組み合わせて利用されることも多い。米国政府の一部の部門では、午前6時から午後6時までの好きな時間帯で8時間働くことができたり、1日の勤務時間を増やし、その分休日を増やしたりできる。また、フィットネスやウェルネス活動のために週3時間の休暇を取ることもできる。
世界では、柔軟性を例外ではなくルールとして取り入れている国もある。1996年の成立以来、フィンランドの労働時間法では、ほとんどの従業員が一般的な就業時間より3時間早く始業、または終業して労働時間を調整する権利を与えられている。2020年にはこの法律が拡大され、正社員は労働時間の半分を好きな時間に好きな場所で働けるようになった。オランダにも同じレベルの柔軟性がある。フィンランドが常に世界で最も幸せな国の1位、オランダが上位5カ国の中に入っているのは、驚くことではないのかもしれない。