センスメイキング:リーダーは正解なき時代の「地図」をつくる
サマリー:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2026年10月号は、DHBR創刊50周年記念特集号として、特集2本立てでお送りします。第1特集は「センスメイキング――リーダーは正解なき時代の『地図』をつくる」、第2特集「経営戦略はどこから来て、どこへ向かうのか」。それぞれの読みどころをご紹介します。

「問い」を立てるリーダーのために

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)は今号で創刊50周年を迎えました。私たちの半世紀の歩みを支えてくださった読者の方一人ひとりに、深く感謝を申し上げます。

 この記念号を編むに当たり、どのような特集を組もうかと編集部が企画を練り始めたのは1年近く前のこと。企画会議で試行錯誤を繰り返しつつも当初から一貫して念頭にあったのは、過去50年という「これまで」を踏まえながら、視点は未来――マネジメントの「これから」を読者の皆さんとともに考える機会にしたいということでした。

 企業が直面する課題は複雑さを増しており、リーダーは専門性の異なる多様な人材をまとめ、チームとして成果を挙げる必要に迫られています。どんな意思決定にも正解はありません。いまリーダーに求められるのは、むしろ置かれた状況を共有し、納得して行動してもらうこと、すなわちセンスメイキング(意味づけ)の実践です。

 そこで今号の第1特集は「センスメイキング――リーダーは正解なき時代の『地図』をつくる」と題し、危機に直面しながらもその難局をくぐり抜けてきた各界のリーダーたちの声に耳を傾けながら、センスメイキングがなぜ今日の経営において重要性を増しているのかを探ります。この特集に込めた編集部の思いについては、拙稿の特集カバーストーリー「世界を理解することから未来は始まる」をご一読ください。

 第1特集の1本目「迷いながらも方向性を示すのがリーダーの役割」は、ソニーグループの吉田憲一郎氏へのインタビューです。2000年代後半に経営危機に陥った同社は、エレクトロニクスからエンタテインメントを主軸とする企業へと劇的な変貌を遂げました。この変革をCFO、CEOとして牽引してきた会長の吉田氏に、不透明な環境下でどのようにソニーの進むべき地図を描き、決断してきたのかを聞きました。

 続く2本目「センスメイキングとは、正解なき世界で前進するための『地図をつくること』である」は、なぜいま世界のリーダーたちがセンスメイキングというコンセプトに注目しているのか、リーダーはセンスメイキングをどのように活かせばよいのか、という問いに向き合った一本です。長年にわたりリーダーシップ研究を牽引し、センスメイキングをリーダーシップやその実践的な応用へと結びつけてきたMITスローンスクール・オブ・マネジメントのデボラ・アンコーナ教授に解説していただきました。

 センスメイキングとは、組織心理学者カール・ワイク氏が体系化した概念的枠組みです。そのワイク氏が、1949年に米モンタナ州で発生した山火事で13人の消防隊員が命を落とした出来事をもとに書き上げたのが、3本目にお届けする「悲劇に学ぶリーダーシップ」です。センスメイキングを欠いた組織はいかにして機能不全に陥るのか。私たちは過去の悲劇から貴重な教訓を学ばなければいけません。

 4本目「不測の事態でも半歩早く動ける自律的な組織をつくる」は、アイリスオーヤマの代表取締役会長である大山健太郎氏へのインタビューです。半世紀以上にわたる経営者人生で、オイルショックやバブル崩壊など数々の難局を乗り越えてきた大山氏。とりわけの深刻な被害を受けた東日本大震災では、この困難をどのように切り抜け、うつむいていた社員たちに何を語りかけたのでしょうか。

 第1特集の最後を飾るのは、建築家の安藤忠雄氏との往復書簡「全力で生きる覚悟に、人の心は動かされる」です。20世紀から21世紀をまたぐ半世紀にわたり、日本の社会や企業は既存の戦略や地図が瞬時に無効化される「意味の喪失」をいくつも経験してきました。それでも先の見えない時代を生き抜くために、リーダーは何を語り、どうやってチームの心を一つにしていくのか。世界と伍し、歴史に残る数々のプロジェクトを手がけてきた安藤氏にその要諦を尋ねました。

 さて、今号は第2特集「経営戦略はどこから来て、どこへ向かうのか」も読み応え十分です。経営を取り巻く環境がこの半世紀で劇的に変化したように、戦略論もまた進化を遂げてきました。第2特集では琴坂将広、ジョナサン・トレバー両教授が、「経営戦略50年の進化を10の視座から読み解く」と題し、経営戦略50年の変遷を語るうえで欠かせない10の視座を厳選し、その集合知をより深く理解し、自社が競争優位を確立するためのヒントを提供してくださいました。

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 いまはこれほど検索性に優れた時代。世の中にすでに存在する問いにならば、答えを見出すことはそれほど難しくはないでしょう。だからこそ、いまリーダーたちが真に備えるべきは、まだ誰にも見出されていない「問い」を立てる力であると私たちは考えます。

 DHBRはこれからも、道なき道を行くリーダーたちの知の伴走者として、読者の皆様が問いを立てるための手掛かりを提示し続けます。これからも変わることなく、DHBRをご愛読いただけたら幸いです。

(編集長 常盤亜由子)