●部下の自己アピールが業績に悪影響を与えていないかを判断する
上司を超えようとしている直属の部下は、自分の職務に秀でているがゆえに、そうしているのかもしれない。しかし業績が思わしくないのに、積極的に自己アピールしている場合もある。この場合、求められている職責が何かを部下に思い出してもらうことが重要だ。
たとえば、このように伝えよう。「あなたは自分自身のブランド構築を上手にしていますが、優れたブランドの中核には、優れた業績に関するよい評価があるはずです。最近のあなたの芳しくない業績を見て、私は心配しています。この部門のリーダーの一人であるということは、自分のチームの能力を向上させ、同僚と協力し合い、あらかじめ決められた計画の実行に責任を持つことを指します。それがあなたの優先事項になっていることを、私は確かめたいのです」
個人的な人間関係だけではなく、素晴らしいチーム実績を通じて自己アピールすることに価値を見出すように促せば、彼らを抑えつけることなく、あなたへの敬意は維持される。
●客観視することで自己不信をコントロールする
あなた自身がアピールすべき相手に部下がごまをすっているのを見れば、不安や自己不信を感じるのは当然である。しかし、どのように対応するかを判断するときは、自信を持ち続けることが重要だ。
私がコーチングをしている顧客の一人であり、フォーチュン50企業の人事部で最近バイスプレジデント(VP)に昇進した女性は、同職に就く候補者だった、経験豊かで広いネットワークを持つディレクターを部下として持った。
彼女が上司になって以来、このディレクターは締切を守れず、自分のチームのコーチをしなくなった。にもかかわらず、全国の人事関連カンファレンスのいくつかで、従業員ブランディングにおける自社の画期的な取り組みについて講演した。彼は名高い業界紙からのインタビューにも数回応じ、実際に統括しているエグゼクティブは自分であり、上司ではないという印象をつくり出した。
このVPは侮辱されたように感じたと同時に、みずからの上司としての威信をひそかに疑い始めた。ある領域においては、彼のほうが経験も影響力もあるからだ。だがリーダーとしての彼女は、客観性を保ち続け、復讐心を持ったり自己批判をしたりしないことが不可欠だった。
実際のところ、部下の3分の1以上は、上司よりも自分のほうがいい仕事ができると、ひそかに思っているという調査結果もある。つまり、このVPと同じ立場にいる仲間は少なくないのである。
このVPは、自分自身と直属の部下の経験を比較することが仕事ではないと、思い出す必要もあった。上司として直属の部下によい業績を出すことを要求し、期待に添わなかった場合には、それをはっきり指摘する義務があった
●部下の行動に対処するときには一貫性を持つ
成功している会社の多くは最近、締め付けない経営管理を好んでいる。その代わり、意欲を向上させて離職を防ぐ方法の一つとして、従業員により大きな権限を持たせている。
この結果、部下の自己アピール活動に対する寛容の度合いに関して、多くのリーダーが首尾一貫していないメッセージを出している。ある行動を許したかと思うと、同じ行動を容認できないと判断するのである。
もし部下が、あなたをしのぐために自由裁量権を行使している場合は、メッセージを真に理解してもらうために、部下に対するフィードバックが一貫していることが不可欠である。
どこまでなら許されるのか、その境界線を部下とともに、じっくりと時間をかけて決めることで、部下は上司やチームとして、あなたの立場を尊重して行動するだろう。信頼感と責任感を強化すべく、その境界線を動かしたくなる衝動に抗うのだ。
●競争にはまり込んで自分を脱線させない
直属の部下に対して、個人的に後れを取っているように感じることがあるかもしれないが、彼らと競争するという罠にはまることは避けたい。競争をしたら、最終的には自分に害が及ぶ。
私は日用品のグローバル企業のマーケティング部門で、シニア・バイスプレジデント(SVP)をコーチしたことがある。彼女は、上司が退職した暁にはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)になるべく育てられてきたし、自分の役職を部下のVPが担えるように部下を育ててきた。しかし、彼女の上司が予想よりも早く突然退任し、私の顧客であるSVPは昇進せず、経験のあるCMOが外部から迎え入れられた。
SVPはがっかりしたが、それでも新しい上司が職務をうまくこなせるように集中した。まもなくSVPは、部下であるVPが新しいCMOとかなりの時間を費やしはじめたことに気づいた。SVPは不安にかられた。
ほどなくして彼女も、CMOの目をひこうとして、部下との競争にのめり込んでいた。自信に満ちたエグゼクティブとしての判断力は鈍り、部下であるVPが何を目論んでいるかばかりに心を奪われ、上級幹部としてふさわしくない振る舞いを取るようになった。その間に、部下であるVPからの信頼を失っただけではなく、彼女らしい強みを生かしてCMOへの影響力を培う重要な機会も失った。
同僚との競争は、ポジティブで共通の目的から生じる場合には、生産性が高まる可能性がある。しかし、不安がもとで同僚間の競争が生じている場合、相手だけでなく自分の生産性も下がる。最終的にそのSVPは、新CMOが着任して1年も経たないうちに異動させられた。上司や自分のチームに対する影響力の低下を、みずから招いたのが主な理由だった。
●自分の部下の大胆さから学ぶ
直属の部下が自分をしのいでいるのは面白くないが、彼らの厚かましさから何か学ぶものはないだろうか、と考えてみよう。
謙虚になって、彼らに秘訣を聞くことにはためらいがあるかもしれないが、ベン・フランクリン効果について考えてほしい。これは助けを求めることが、あなた自身やあなたの人間関係にプラスになる可能性があるというものである。すなわち、人はあなたに助けてもらうよりも、あなたから助けを求められたときに助ける価値がある、と感じる可能性が高いことを示している。あなたの求めに応じているということは、すでに自分はあなたに心を開いているのだと考え、より好感を持つようになるからだ。
直属の部下に次のように伝えることもできる。「あなたはソーシャルメディアやさまざまな講演会で、当社をすごく上手に売り込んでくれている。私も自分の知名度を上げる方法をあなたから学びたい。どこから始めればいいか、アドバイスをくれないか」
彼らは喜んで助けてくれるかもしれないし、あなたの問いかけが共通の興味を持っていることを示して、信頼度も上がるかもしれない。事実、類似点があると感じる人たちの間には、強い連帯感が生じる。
大胆なゴールを達成するには、才能と野心があって大胆なメンバーがチームに必要であることに、疑いの余地はない。しかし、直属の部下があなたをしのごうとして、上司としてのあなたを尊重しないとき、彼らの野心を潰すことなく自分のリーダーシップを保つために、こうした戦略を使ってほしい。
HBR.org原文:What to Do If Your Employee Starts to Outshine You, October 24, 2019.
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ニハール・チャーヤ(Nihar Chhaya)
アメリカン航空、コカ・コーラ、ゼネラル・エレクトリック、デルなどのグローバル企業で、エグゼクティブ向けのコーチングを行う。フォーチュン500企業で人材育成部門のトップを務めたのち、パートナーエグゼク(PartnerExec)の社長として、事業および戦略上の優れた成果を出すために、リーダーに必要な人間関係の秘訣を習得する手助けをしている。同社のサイトから、緊張を与えずにチームにフィードバックをするためのアドバイスにアクセスできる。