母親業をうまくこなす
地球上どこであっても、母親業は楽ではない。2人のセーラは(そしてあらゆる親が)、それは事実だと証言するだろう。
だが、米国よりもスウェーデンのほうが、働きながら子どもを育てるのが、はるかに楽であることは否定できない。筆者はそれを、2人のセーラの経験からまざまざと見た。
これは国が違うせいというより、社会政策が違うせいだ。
たしかに、働く親に対する手厚いサポートは安上がりではなく、スウェーデンは税金が非常に高いことで知られる。2015年の所得税の限界税率は56.9%にもなった。この税率が適用されるのは、国内の平均所得の1.5倍以上を稼ぐ人たちだが、米国の場合、限界税率は46.3%で、平均所得の8.5倍以上(約40万ドル以上)を稼ぐ人にしか適用されない。
だが、スウェーデンは、高い税金に見合った手厚いサービスを受けているし、経済的にも成功している。国際通貨基金(IMF)によると、2017年のスウェーデンのGDPは、経済協力開発機構(OECD)の富裕国30ヵ国のうち8位だった。
米国で増税をせずに行政サービスを拡充するためには、当然ながら、既存の税収の配分を見直すことが一つの方法となる。
たとえば、国防予算。2015年、米国の軍事費はGDP(6490億ドル)比3.2%で、税的措置による家族優遇策やサービス、現金給付の金額はGPD比1.1%(約2000億ドル)にすぎなかった。つまり、政府は家族支援よりも軍事費に毎年3倍の金額と使っている。OECD諸国の家族給付は平均してGDP比2.4%だった。スウェーデン、英国、ハンガリー、デンマークは3.4~3.6%だ。
米国は、OECD加盟国の中で、最も家族支援が乏しい国だ。有給の育児休業がないのは、地球上で2ヵ国しかない。米国はその一つだ。連邦政府は、育児休業も病欠も保証しないし、国の子育てシステム、医療保険システム、あるいは社会保険制度もない。家族問題専門の連邦機関もない。憲法に「家族」という言葉がない、世界でも数少ない国の一つである。
従業員に子どもが生まれたり、養子をもらったりしたとき、サポートを得られるかどうかは事業者の最良次第だ。シアトルのセーラが勤めるような小さな会社は、有給育児休業を与えないと決めることさえできる。
米国では、税金は少ないかもしれないが、スウェーデンと同じレベルのサポートを得るためには、さまざまな料金や保険料や医療費のほか、学費や託児料金など法外な金額を自腹で負担しなければならない。それらは収入と同じくらいにまで達しつつある。
それは、親(と子ども)に経済的なストレスや感情的な疲れをもたらすだけでなく、生産性の低下や頭脳流出(親が仕事を辞めることを選んだ場合)、さらには企業の業績悪化をもたらすことは明白だ。ストックホルムのセーラも、シアトルのセーラも、日々、職場でベストを尽くそうと努力しているが、それは言うほどに簡単ではない。
法改正が進まない中、育児休業を独自に提供する措企業もある。それは素晴らしいことだが、あくまでこうした一握りの企業で、安定した給料の仕事に就いていればの話だ。現実には、休業支援を最も必要とする労働者は、民間のシステムではその恩恵にあずかる可能性が最も低い人たちである。その責任は、個々の事業者に委ねられるべきではない。
米国は、すべての働く家族をサポートする、国としてのシステムが必要だ。それをつくるのは容易ではないが、米国以外のすべての豊かな工業国は、すべての人に有給の育児休業を与え、医療補助や託児補助を提供する方法を見つけてきた。だとすれば、米国だって、このパズルを解けるはずだ。
これを実現すべき道徳的な理由は明白だ。ビジネス面からの理由もはっきりしている。米国の政策立案者は、なぜ手をこまねいているのだろう。
HBR.org原文:Two New Moms Return to Work - One in Seattle, One in Stockholm, March 03, 2020.
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