訓練によって身につける

 ひょっとすると、勇気を筋肉と考えるとわかりやすいかもしれない。世の中には、もともと優れた筋肉を持つ人もいるが、訓練や練習さえすれば、誰もが筋肉を強化することができる。

 筆者の元教え子の一人は、リーダーシップ研修で一緒だったCEOたちのサポートがあったおかげで、自尊感情の低さと不安を解消しなければならないことに気がついたという。よい相談相手がいたことも助けになったと、彼は言う。パートナーや親しい友人たちが、勇敢な行動を取るよう彼の背中を押してくれたというのだ。

 筆者は50年にわたり精神分析学者、心理療法士、そしてエグセクティブコーチをしてきたなかで、患者や学生たちが勇気ある行動をとるのを助けるテクニックを、いくつか発見した。

・シナリオをつくる:ある行動をとったときに起こりうる最悪の事態と、行動を起こさなかった場合の結果を想像してみよう。自分が冒すことになるリスクが明らかになると、恐怖に対して免疫がつく。

ネガティビティ・バイアスを認識する:多くの人は、ポジティブな結果よりも、ネガティブな結果に注目しがちだ。これに関する研究を知ると、このバイアスを是正する助けになる。そしてポジティブなシナリオも、ネガティブなシナリオと同じくらい時間をかけて考えよう。また、ネガティブなシナリオについて考えるときは、危険と思われる状況を建設的に再構成してみよう。

・無意識の恐怖を口に出して話す:行動を起こすことを恐れる人は、自分に自信がないことが多い。この自信の欠如は多くの形であらわれる。やらなければならないことの先延ばしや、完璧主義や、インポスター(詐欺師)症候群(自分の能力の過少評価)などだ。自己不信を誰かに打ち明け、自分の弱みをさらけ出すと、ポジティブなエンパワーメント効果が得られる。自分が本当に恐れているのは何かがわかれば、状況に対する恐怖がおさまり、行動を起こす勇気を得ることができる。恐怖を克服した人の話を聞くこともプラスになるだろう。

・居心地のよい領域から踏み出す訓練をする:意識的かつ一貫して、小さな勇気ある行動を起こすようにすると、蓄積効果がもたらされる。たとえば、日常生活で何かがおかしいと思ったときは、それを口に出してみよう。一見小さなことでも、自分の立場を明確にすることは、難しく勇気のいる決断を下す癖を強化できる。

・体調を管理する:恐怖は肉体を疲弊させる。肉体の疲弊は、精神の疲弊を悪化させる。困難な状況で行動を起こさなければならない人は、心身が健康な状態でそうするべきだ。だから、危機のときもきちんと食事をとり、運動をし、睡眠をとること。瞑想やヨガなどリラックスするためのテクニックも、勇気ある行動に必要とされる明晰な頭脳を持つ助けになる。

・自分は一人ぼっちではないことに気づく:自分の恐怖を心おきなく打ち明けられる相手がいること(そして、その相手も恐怖を打ち明けてくれること)は、勇気を試される場面で貴重だ。それは、あなたのことをよく知る相手である必要はない。筆者のある教え子は、初めて会ったセミナーの参加者たちから力を得たと語っていた。恐怖は、中毒のようにもなりうる。同じ立場にある人のサポートを得られれば、恐怖を克服する助けになるだろう。

 人間は、自分の恐怖を直視できるようになるほど、恐怖にもとづく反応ではなく、勇気にもとづく反応ができるようになる。

 だが、「内なる敵との戦い」が延々と続くわけではない。人間は自分の恐怖と戦っていると、生きていることをより実感するものだ。哲学者で詩人のラルフ・ワルド・エマーソンは、こう言っている。「日々、何らかの恐怖を乗り越えていない人間は、生命の神秘を学んでないのと同じだ」


HBR.org原文:How to Find and Practice Courage, May 12, 2020.


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