それでは、どうすれば企業の停滞を打ち破ることができるだろうか。

 世界的なパンデミックなどの危機のように、外部からの力やトラウマも役に立つはずだ。とはいえ、ここでは危機に際して敏捷性と柔軟性をさらに高めるために、リーダーが採用し得る2つの重要な方策を見ていこう。

 まず、リーダーは資源の再配分を判断するために、「戦略的な枠組みを設定する」ことができる。

 過去にやったことにしがみつくのではなく、将来の前向きなビジョンに人々の意識を集中させることにより、将来の再配分に必要な調整を促進できる。凝り固まった縄張り争いは徐々に落ち着き、資源の再配分が引き起こしかねない不安を和らげるだろう。安全と安心が保証されれば、不安をさらに抑えることができる。

 リーダーはさらに、「予算編成プロセスの改革を通じ」て、既得権のマインドを打破することができる。

 戦略的な枠組みを確立したうえで、資源の再配分の新しい「ゲームのルール」を提示する。そして、組織がどのようなプロジェクトに資金を提供するか(どのようなプロジェクトには提供しないか)と、既存のプロジェクトと潜在的なプロジェクトの双方を評価するためにどのような基準を用いるかについて、詳しく説明する必要がある。

 極端なやり方ではあるが、年度をまたぐ予算のつながりを断ち切り、前年度予算の70~80%しか繰り越さないと決めれば、強制的に変化が起きるかもしれない。再配分の範囲を公にすることにより、削減額の上限が見えて、既存の部署やチームの責任者の不安を和らげることができる。

 企業にとって、答えは資源の再配分だけではない。事業の衰退に直面したリーダーは、単に規模を縮小し、利幅を拡大して株主に現金を還元しようと考えるかもしれない。

 この選択肢は、通常は敬遠されるが、状況によっては合理的と言える。むしろ合理的でないのは、今日の大半の組織で既定路線となっているように、市場が変化しても頑なに従来の手法で投資することだ。

「適応できなければ滅亡するのみ。これは昔もいまも、自然界の避けられない原則だ」と、H. G. ウェルズは書いている。グローバル企業がこの選択を迫られる危機は、新型コロナウイルス感染症が最後とはならないだろう。年内でも、これが最後ではないかもしれない。

 企業を守るためには、アジャイルな仕組みの導入といった表面的な改革を超えて、資源の配分に影響を与える内部の力学と向き合わなければならない。リーダーは、危機に対応してイノベーションを実践しようという覚悟をそぐような強い感情的な力から、みずからを解放する必要がある。

 不安定さがもたらす、常に変化する脅威から身を守るために予防接種が必要なら、これが最善の方法なのだ。


HBR.org原文:What Really Prevents Companies from Thriving in a Recession, September 02, 2020.


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