取締役会の構成、
人種と民族ごとの割合にもっと関心を払う

 コロナ禍によるダメージが社会階層により大きく異なり、人種間の不平等への怒りが続く中で、取締役会の構成、とりわけ人種と民族ごとの割合が注目を浴びるようになっている。この点に関して、これまでのエージェンシー理論に基づくモデルは、お世辞にも明確な結論を導き出しているとは言えない。

 経済学者のミルトン・フリードマンは、企業の社会的責任に関する古典的な論文の中で、理想的な「エージェント(代理人)」(ここでは取締役もしくは経営者のことを指す)として、何の変哲もない男性を念頭に置いている。

 その人物は、株主の利益を最大化することだけを考え、みずからの個人的な信念を、さらには家族やコミュニティへの義務もすべて封印するものとされている。この理論によれば、取締役が職責を果たすうえでは、その人物がどのような人間かは、ほとんど関係がないと考えられるのだ。

 このような理論に欠けている部分を埋め合わせるために、実務上は、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)の経験を持つ人物――そうした役職を担ってきたのはたいてい白人男性だ――を取締役に任命したり、現役取締役の個人的人脈を通じて候補者を探したりすることが行われてきた。その結果として、似たような経歴を持つ高齢の白人男性が取締役会の多数を占め続ける状態がずっと続いてきた。

 この10年ほど、女性取締役を増やすことを求める動きにより、ジェンダーの不均衡はある程度解消された。米国の有力な株価指数の一つである「ラッセル3000」の構成企業を対象に、議決権行使助言会社のインスティテューショナル・インベスター・サービシズ(ISS)が行った調査によると、女性取締役の割合は、2009年には9%だったが、2019年には19%に上昇している。

 しかし、人種と民族の面では、まだきわめて大きな不均衡が残ったままだ。

 ISSの別の調査によると、ラッセル3000の構成企業の取締役会で人種的・民族的マイノリティが占める割合は12.5%にとどまっている。人種的・民族的マイノリティが米国の総人口に占める割合は40%に達するにもかかわらず、である。『ブラック・エンタープライズ』誌の2019年の調査によると、別の代表的な株価指数S&P500の構成企業の38%近くは、取締役会に黒人が一人もいないという。

 取締役会の役割は、戦略に関する指針を示し、経営を監視することだ。その役割を果たすために、取締役は、自社のビジネス上のニーズとビジネス環境に適したスキルを持っていなくてはならない。コロナ禍の打撃と、社会全体で人種間の不平等への問題意識が高まっていることの影響により、取締役会のメンバーが多様な経験と視点を持っていることがいっそう重要になってきた。

 自社とさまざまな利害関係者との関係、経営陣が選択する戦略、自社が直面するリスク、社会との関わり方、報酬制度のあり方、ダイバーシティとインクルージョンに関する取り組み――こうした要素を検討することは、取締役会の標準的な仕事の一部だが、そのような役割を果たすためには、多様な人種や民族の取締役の視点が不可欠に思える。

 研究によると、女性取締役が加わると、取締役会の議論のあり方が変わり、取締役会の能力が高まるという。人種的・民族的マイノリティの取締役が増えれば、同様の効果が期待できるだろう。

 マイノリティの取締役を登用することには、その企業に対して実利上の恩恵をもたらす効果と、あらゆる人種と民族の人たちに機会を提供するという道徳上の意義があるだけでなく、社会に蔓延する人種間の不平等を解消するうえでも大きな意味がある。

 アフリカ系米国人などのマイノリティは、コロナ禍により、ことのほか深刻な打撃を被っている。専門家によると、その大きな要因は、それらのグループが社会的・経済的に不利な立場に置かれている点にあるという。そうした不利な状況は、この問題をよく理解している人たちがリーダーの地位に就くケースがもっと増えて、ビジネスと取締役会での影響力を増すことが不可欠に思える。

 企業に行動を求める圧力は、今後も高まり続けるだろう。

 機関投資家はすでに、企業の取締役会に対して、黒人やその他のマイノリティの取締役を増やすための計画を示すよう要求し始めている。取締役会の人種的多様性が欠如しており、その点で取締役たちが信認義務を果たしていないという理由により、株主による訴訟が少なくとも1件提起されている。

 カルフォルニア州議会は最近、同州に本社を置く株式上場企業に対して、2021年までに少なくとも1人のマイノリティの取締役を任命するよう義務づける州法案を可決した。一方、自発的に、黒人などのマイノリティの取締役を増やすことを約束している企業もある。

 このような行動をまだ取っていない企業の取締役会は、既存の取締役たちが持っているスキルを見直し、人種的・民族的多様性を高めることを念頭に置いて、取締役の補充計画を再検討すべきだろう。ただし、取締役補充のプランは、会社の戦略に沿い、人種や民族以外の面(業種、地域、専門分野、性別など)で重視したい多様性を損なわないものでなくてはならない。

 そのために、取締役会はしばしば、取締役候補の人材を発掘する経路を新たに確立し、新任の取締役を迎え入れる方法論も新たに築く必要がある。加えて、取締役会の一体性を高めるためのプロセスを意識的に設けることも求められる。

 取締役会が目標を達成し、真に多様性のある取締役会をつくることによる恩恵に浴するためには、取締役会の一体性が不可欠なのだ。

取締役会の仕事は
ますます難しくなる

 一言で言えば、新型コロナウイルス感染症の流行は、取締役の仕事をいっそう難しくした。感染の拡大が始まって以降、取締役会は、それまでよりも頻繁に経営陣から報告を受けるようになり、短時間の会議をたくさん行うようになった。次々と持ち上がる問題に対処するために、その必要があるからだ。

 さまざまな調査によると、企業の取締役を務めている人の大半は、業務に費やす時間が増えている。コロナ禍が落ち着けば、取締役会の会議の頻度と密度はある程度低下するだろう。それでも、本稿で指摘したようなことが取締役会に求められるようになれば、取締役が業務に費やす時間は増えざるをえない。

 戦略に関して経営陣と緊密に協力し、成果の測定基準を増やし、これまでより多様なリスクを監督し、報酬制度を再検討し、慎重に熟議を行い、取締役会の構成を見直す――こうした活動はすべて時間を要する。しかも、バーチャル取締役会を開催しやすくなれば、(移動が解禁されて、そのうえ安全性が確保された場合には)定期的な対面式の取締役会を行う一方で、これまでより頻繁に短時間の会議を行うケースが増えるだろう。

 コロナ後の時代、企業の取締役会は、新しい課題に対処する能力をどの程度持っているかを自己点検し、足りない部分があれば、それを埋めるための計画を立てるべきだ。古い常識に疑問が投げ掛けられている今日、取締役たちが取締役会の、そしてひとり一人の取締役の役割と責任について共通の認識を抱くことを目指さなくてはならない。

 コロナ禍でさまざまな活動に追われる中で、忘れてはならないことがある。取締役会の最大の役割は企業の統治機関を務めること――この点を肝に銘じておくべきだ。


HBR.org原文:Covid-19 Is Rewriting the Rules of Corporate Governance, October 06, 2020.


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