ラクダの体は長期戦を戦うためにできている
フロンティアの創業者たちは、起業が短期的な取り組みではないことを理解している。多くの場合、成功はすぐには手に入らず、創業後にしばらく経ってから実現する。
また、生き残りが主要な戦略であることも少なくない。そうすればビジネスモデルを構築する時間が生まれ、マーケットに響くプロダクトを見出し、規模拡大を実現するための組織づくりができる。
競争は常に存在するだろう。しかしそれは、どの企業が最も長く生き残るかを競うものであり、どこが最初にマーケットに飛び出すかを競うものではない。
クイズレットはシリーズCで3000万ドルを調達したばかりだったことから、2020年5月の時価総額は10億ドルと評価された。初めて資金調達をしたのは創業から10年が経った2015年で、シリーズAの時に調達した資金はわずか1200万ドルだった。そこに達するまで時間をかけて、成長はゆっくりだが着実にという考え方に基づいて事業を営んだのである。
そのようなペースのおかげでクイズレットは破壊されずに済んだ、とグロツバックは筆者に語った。「実は、もしクイズレットがライフサイクルのもっと早い段階で大金を調達したら、成功しなかっただろうと確信している。高く期待され、早い時期に資金をつぎ込むことによるリスクは大きく、そのような期待に応えられるだけのスピードでは事業を拡大できなかっただろう。目標が高すぎる反面、実績が低すぎる多くのスタートアップのように」と彼は述べた。
長期的な視野で見ることは、リスクとリターンのトレードオフに対処する時に不可欠である。
レジリエンスの幅広さと深さ
フロンティアで事業を始めた企業は、ほかにはない制約に直面し、それが逆境での強みになることがよくある。
起業家は必要に迫られて小さな市場でスタートアップを経営していることが多く、その市場だけで企業を育てたり、維持したりするのは難しい。すなわち、当初から世界市場を狙うボーングローバルによって多くの市場をターゲットにすることを強いられるのである。
たとえば中古車関連プラットフォームで人気の高いフロンティア・カー・グループは、当初5つの市場で事業を始め、それぞれが地域のハブとして機能した。プロダクトが人気を博した国もあれば、そうならなかった国もあり、事業を展開しながら貴重な教訓を学び、適合しないと感じた市場からは撤退した。しかし、最初に間違った国にすべてのリソースをつぎ込んでいたら、同社はすでに存在していなかったかもしれない。
同様に、フロンティアの市場には隣接するプロダクトやサービスに関する豊かなインフラやエコシステムによる支えが存在しない。そのため起業家はしばしば、市場に深く入り込んで事業を支えるためにさまざまなインフラを構築する必要に迫られる。
これはすなわち、複数の事業やプロダクトを有し、サービスのエコシステムをただちに供給することを意味する。その結果、どれか1つが減速すると、他がその分をカバーできる。
ギアボルソの例を見てみよう。ギアボルソとは、ブラジルの顧客が各自の資産をうまく管理するために理解を助ける「パーソナル・ファイナンス・マネジャー」のソフトウエア・プラットフォームである(米国のミント・ドットコムに似ている)。
エコシステムがより発達した中で事業を展開する同業他社とは異なり、ギアボルソの場合は、顧客自身が新たに発見した金融上の見識を最大限に活用できるように、それまで存在しなかった銀行との相互接続レイヤーを自社開発し、全国的に堅牢な信用スコアのインフラがない中で信用度を見極め、製品市場を開拓しなければならなかった。
もちろん、起業家はこの幅広く、かつ深いポートフォリオ戦略だけで戦うことはできないし、それを目指すべきでもない。
スタートアップを成長させ続けることはきわめて難しく、手を広げすぎるとどの分野でも月並みな結果しか残せない。むしろ成功するラクダは自己強化(成功や失敗から学んだことが企業全体を支える)や、自己均衡(企業の一部の機能が他の部分を自然とヘッジする)のみにリソースを注いでいる。
バランスよく成長して、長期戦に備えて組織を構築し、レジリエンスを培うために深さや多様性を優先することで、ラクダはショックが起きた市場でも生き残れるだけでなく、よい時にも悪い時にも成長して繁栄できるようになる。すなわち、逆境を競争上の優位性に変えるのだ。
将来待ち受けている厳しい試練に備えている時、その答えはシリコンバレーの閉じた枠の中では見つからない。しかし、フロンティアにいるラクダから学ぶことで見つかるだろう。ラクダはずっと前から、その解決法を知っているのだ。
HBR.org原文:Startups, It's Time to Think Like Camels - Not Unicorns, October 16, 2020.
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