企業の社会的な存在意義を示す「パーパス」がビジネスリーダーの間のホットワードになっています。そこで、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2022年6月号では、「パーパス経営」と題した特集を組みました。いま、パーパス策定が目的となり、成長や利益から「逃げる」リーダーも出始めています。パーパス策定が目的になっていないか、問い直す時期を迎えています。
パーパスは
現実逃避の手段ではない
社会における企業の存在意義を示す「パーパス」の特集号を弊誌で初めて出したのは、2019年3月号のことでした。
その後、日本においてもパーパスの概念が急速に広まり、2021年11月には『日本経済新聞』の1面で取り上げられました。当時、パーパス普及を進めていた方々からは「ようやく世の中に広がる」と称賛の声が上がりました。
実際、いま多くの企業において会社の存在意義を問い直す議論が行われていることでしょう。
しかしながら、パーパス策定の「目的」をきちんと議論しているのでしょうか。
パーパスの潜在能力が最大限まで発揮されるのは、それが自社の価値提案と矛盾なく調和し、社内外の人々が共有できる時です。逆に、そこに嘘偽りがあると逆効果になってしまう場合すらあります。
今号の特集「パーパス経営」では、企業のパーパスに息を吹き込むための実践的な知見を提供します。
第1論文「パーパス策定の原則」では、パーパスには「コンピタンス」「文化」「大義」という3つのタイプがあり、そのどれが自社にとって合うのかについて検討すべきだと述べます。
3つの重要ルールを示したうえで、パーパス策定における5つのステップを提示します。パーパスを策定しても、利益を生み出せなければ会社の未来はありません。
第2論文の「利益とパーパスの追求は両立できるか」では、ハーバード・ビジネス・スクールのランジェイ・グラティ教授が利益とパーパスの構造を論じます。トレードオフが必要な場合、リーダーはいかに優先順位をつけるべきか。「ディープパーパス」を提唱する筆者がそのヒントを提供します。
第3論文は、ユニリーバの人材マネジメントについて述べた「パーパス主導で職場変革を実現する方法」です。
ロボティクス導入やデジタル技術の活用など、多くの企業が新たな挑戦をしていますが、その裏では人員削減や手当の削減などが行われています。ユニリーバは安易にそうはしません。変革期においても、そのミッションを堅持し、成功へと導いています。
第4論文は「アジャイルな働き方でパーパス型組織に転換する」です。筆者のベイン・アンド・カンパニーのパートナーらは、利益最大化の既存システムをパーパス主導型へと転換する際、社員の働き方にその突破口を見出します。
特集5本目は、「ユニ・チャームは『共振の経営』でパーパスを実現する」です。パーパスはリーダーにとって、どのような意味を持つのでしょうか。ユニ・チャーム社長の高原豪久氏は「縮こまった人の心を柔軟にしてくれるものだ」と述べます。
パーパスがあることで、現状に満足せずに、変化を受け入れ、創造力を発揮してより高みを目指すことができるのです。独自のマネジメント手法「共振の経営」がパーパスを社員に「腹落ち」させる役割を担います。
特集6本目は、サイバーエージェント社長の藤田晋氏へのインタビュー「パーパスは経営者が現実逃避するための手段ではない」です。いま、利益から目を背けて、パーパスに「逃げる」経営者が出始めています。藤田氏は、「綺麗事からは利益も成長も生み出せない」と考え、パーパスの策定に懐疑的でした。
ではいまなぜ、同社が「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というパーパスを掲げたのでしょうか。藤田氏の真意に迫ります。このように、パーパス経営にまつわる数多くの論考を用意しました。
ほかとは一線を画す内容で、その深みを感じていただけるはずです。ぜひご一読ください。
(編集長・小島健志)