入山 もう1つ、USA Todayの事例で重要なのは、新規事業を社長直轄にしたことです。社長が新規事業にちゃんとコミットしたことで、他の新聞社が二の足を踏む中、USA Todayはいち早くデジタル化に舵を切れたのです。

日置 社長自身が進むべき方向性を示し、かつ責任をとることで、社員が伸び伸びと新しい知の探索に打ち込めたということですね。グローバル企業のCIO(Chief Innovation Officer)やCTO(Chief Technology Officer)と話をすると、「イノベーションは結局、リーダーシップだ」と言われます。ハコごとに収益責任の枠をはめる「窮屈な自立」ではなく、リーダーが企業全体における知の探索の位置づけを明確にした上で、その活動における自由と規律のバランスをマネジメントすることが求められていると、あらためて感じます。

<2>旧型の固定的なネットワーク

入山 「両利きの経営」を1つの企業だけでなく、ケイレツというネットワークで実現したのがトヨタです。トヨタは、ケイレツで一台の車を組み上げるまでに必要な機能を分担しています。現ブリガムヤング大学のジェフリー H.ダイアー教授は、トヨタはサプライヤーやその団体である協力会をうまく活用して、大きな戦略はトヨタで描き、その中でサプライヤーに自由な探索をさせていると言います。

日置 トヨタはネットワーク型組織の1つのあり方を提示してきていますよね。製品は自動車という複雑なものだけれども、ビジネスとしては一本というトヨタには、ケイレツがぴったりとはまってきたということでしょう。

入山 一般的に、トヨタを含めた日本の自動車メーカーは外注比率が高く、一台の車の付加価値のうち、7割くらいをサプライヤーに発注しているといわれています。GMなど海外勢はもっと内製化しています。なぜそこまでサプライヤーに頼れるかというと、一橋大学の浅沼万里先生などの研究では、同社はサプライヤーに対して日頃は厳しい要求をしても、外部的な不景気や円高で景気が悪くなった時には支援するなど、トヨタがリスクを吸収しているからなのだそうです。

日置 そのような距離感で探索の余裕とリスクのバランスをとるのが絶妙なんですね。同じ業界の企業がすべてそこまでの関係を作れているわけではないので、トヨタのうまさが光りますね。

入山 まさに絶妙ですね。1つの部品を発注する際に数社に話を持ちかけて競わせても、採用見送りとなった企業も完全に見捨てることはしないで次のチャンスを与えるようなサイクルを脈々と続け、安定したネットワークで新しい価値を生み出してきたのです。