<3>新型のオープンなネットワーク

日置 一方、技術進化が速く、不確実性の高い近年の環境では、柔軟でオープンなネットワークでイノベーションを創出しようという動きが多くあります。ケイレツを旧型とするなら、こちらはネットワークの新型と言いましょうか。

入山 この新ネットワーク型組織については、スタンフォード大学のジョエル・ポドルニー教授らが”Network Forms of Organization”という論文を『アメリカン・レビュー・オブ・ソシオロジー』誌に発表して以来、経営学の大きな流れの1つとなっています。経済学を応用した従来の経営学では、企業間の関係を取引費用理論やエージェンシー理論で捉えようとしますが、彼らはそうではなく、社会学的な見地から、「企業の間には人が介在するネットワークが存在する」という見方をしています。組織の中の個々の人間が境界を越えて、外の世界と様々に繋がっていることを認識しないと、組織は正確に捉えきれないということです。

日置 自動車のように製品の型が定まっていてサプライヤー各社がその範囲で技術を高めていくような域を出て、ビジネス・アイデアやビジネス・モデルまで含めて新しいものを創造していこうとすると、人のネットワークをベースに柔軟に探索することの重要性が高まります。最近、経営者の方と、企業を「ものの集まり」と見るか、「お金の集まり」と見るか、はたまた「人の集まり」と見るかと話すのですが、やはり「人の集まり」と捉えていくべきなのでしょうね。

入山 そうですね。特に米国の新しいグローバルIT企業のように、短いサイクルでイノベーションを起こし、サービス化するような業界では、そのような捉え方が主流になっているのかもしれません。

日置 日本企業でも、スタートアップ系や、もともとある産業のネットワークの中で営んできた中小企業では、人と人を直接結びつけるネットワークが柔軟に働いていると感じますが、大企業となると、途端に旧来的で内向きな組織の考え方が支配して、企業の内と外を区別してしまいます。しかし不思議ですよね、通勤電車や家では普通にFacebookなどのSNSでいろんな人とつながるのに、企業というハコに入ったらそれができなくなる……あまり人のことばかり言えない気がしますが(笑)

入山 ポドルニーの理論には、もう1つ重要な示唆があります。伝統的な経営学で企業を考える際には市場と企業という二項対立が所与であり、企業の活動はその枠の中で語られるのですが、彼らは、企業内や企業間だけでなく、市場と企業の間にも人が介在しており、そこまで含めた社会全体を人のつながりと捉えています。

日置 なるほど。オープンに価値を創造することの本質は、自社視点だけではなく、社会起点から新しい価値を考えるところにあるのではないかと思っています。本当に新しいものを目指すからこそ、単にオープンという掛け声ではなく、社会への価値を高めるためにネットワークをどのように活用しようかという意図やしたたかさがないと何も生まれません。大企業は本来、インテグレーション力に優れており、実際、グローバル企業は以前(第4回)にお話した「1.5列目」的に自社の強みと外部のアイデアや技術を掛け合わせたインテグレーションで新しい価値を生み出す動きをしています。しかし日本企業では、自前を是としすぎているのか、そういう動きをするところは少ないですね。