人事の原則

 経営トップは、人事に最も時間を取られる。そうでなければならない。人事ほど長く影響し、かつ取り消しの難しいものはないからである。

 ところが昇進にせよ異動にせよ、どの会社でも、実際の人事はまったくお粗末で、これほどお粗末な仕事ぶりが許されている分野はほかにない。もちろん、このような状況を我慢する必要はないし、我慢してはならない。

 人事に完全無欠はありえないが、10割に近づけることはできる。なぜならば、人事こそ、我々が最もよく知っている分野だからである。事実、完璧に近い人事を行うトップは多い。

 たとえば、アメリカ陸軍参謀総長ジョージ C. マーシャルやゼネラルモーターズのアルフレッド・スローンがそうである。

 アメリカ陸軍の若手将校を、短期間で優れた将軍団に育て上げたのは、マーシャルによる人事の結果だった。彼の人事のすべてが成功だったわけではないが、失敗は皆無だった。

 またスローンは、GMの経営陣の人事はすべて行った。今日、スローンの視野や価値観が狭かったという批判がある。たしかに内部の効率に目を奪われがちで、社会的責任や地域との関係など、外部のことへの関心は薄かったが、人事だけは常に一流だった。

 彼らは異質であるが、2人は、同じ原則に従って人事を行っていた。